5-39 壊された希望
子らが楽しそうに、畑の事をしている。顔色も良く、力強い。早稲を出て三月、漸く村らしくなった。あの裁きが、遠い昔のよう。いろいろ、あったなぁ。
離れに二人。シゲとシンは、思いつめていた。
「シン、村を出て、行くアテはあるのか。」
「ない。いくら木下の村の、死んだ長の孫でも、さ。オレ、早稲の村で育ったから。どの村でも、受け入れてもらえない。」
「そう、だろうな。」
「なあ、シン。」
「ん。」
「ナナさんの骨。どうするんだ。」
「木下の村に、埋めようと思う。」
「そうか。あの、さ。言い難いんだけど。」
「三鶴に滅ぼされたことは、知ってる。」
中井の村と木下の村には、狩り人がいなかった。稲が良く育つ、肥えた土地。川から離れているが、泉があって、水に困らない。穏やかで、豊かな村だった。
だから、狙われた。三鶴の国に組み込まれて、今も苦しめられている。
「稲田の長、逃げたって。狩頭が村長になったらしい。」
「ま、そうなる、だろうな。」
「新しい長。大田と草谷の長と組んで、三鶴の長を負かせたって。刃と弓を構えたまま、話し合ってさ。これからは、対対の付き合いになるらしい。」
「へぇ、強かだな。」
「なあ、シゲ。」
「何だ。」
「これから、どうする? アテはあるのかい。」
「いや、ない。日吉山へって話は、タツに壊されたからな。」
日吉社の祝に、許しを乞うつもりだった。その手筈を整えていた。なのに、タツのヤツ。何度も言ったのに、子を傷つけるなと言ったのに。もう、叶わない。日吉だけじゃない、他の山だって。
誰もいない山に・・・・・・。
「村の外れに暮らす人だけ連れて、村を作ろうと。そう思っている。」
「どこに作るんだい。」
「釜戸山の灰が降る山に。」
「そうか、いいな。」
「祝に、許してもらえたら。だけど、な。」
「なあ、それ、何だい。」
シゲが、たまに撫でている包み。何が入っているのだろう。
「セツと、子らの髪だよ。」
何も言えなくなった。
「そうか。」
やっとのことで、声を絞り出す。
「夢見草、植えようかな。」
「え。」
「セツが好きだった花だよ。」
白くて、小さい花。誰も花の名を知らなくて、カズの母さんが名付けたって、セツさんが・・・・・・。
「村、作るなら。いや、いい。」
頼めるワケ、ない。
「来るか。」
「い、いいのか。」
「ああ、いいよ。セツも、そう言うさ。」
「でも、他の、人が。」
「そうだな。聞いてみよう。」