12-37 お宝
こっ、断れないヤツだ。
とても珍しい闇を感じて山在に行ったんだ。あの時チョコッと齧って、お古の袋に入れたよ。直ぐに入れたのはね、気持ち悪くなったから。
人なのに闇を飼ってんだもん。
人だった時、他の闇と戦ってる時、他の闇が憑いて膜に弾かれて伸びてた時。頭をパッカンして熊を呑み込んでいる時、違う人に乗り換えて直ぐのも齧った。
カラカラに乾いたのは空っぽだったから、齧らずに戻ったヨ。でもね、膜に突っ込んで直ぐのは齧りマシタ。
オカシイと思ったんだ。だってさ、清めの膜を通ったんだよ。闇なのに、あんなに禍禍しいのに。
若しかして、若しかシナクテモ危ないヤツですか?
「あの、お探しの闇。人の子に憑いて、朝になると横に跳んでたヤツですか。」
お尻を土につけ、ゴクリ。
「ホゥ。」
明寄の目がキンキラリン。わぁ、当たりだ。
「鼠ん、土の下にある巣穴へ。」
ウッ、蒐さま。巣穴は木の上にも有るのに、『土の下』って言うなんてヒドイ。隠せないじゃないか。
鼠んコレクションルームは国会図書館もビックリの蔵書数、じゃなくて収集量を誇る。
天井まで届く棚には木の葉を切り抜いて、対象物の形を作り出したモノがペタリ。
棚にズラリと並ぶ綴込みに何が入っているのか、一目で判るようになっているのだ。案内ナシでも大丈夫。
「お探しの闇、こちらです。」
人の姿に変身した鼠ん、密閉保護された袋を差し出す。
祝の力で作られたソレは透明で、開封しなくても中身を確認できる優れ物。
「コッチから禍禍しい『禍禍ン』に憑かれる前のセイ、でしたっけ? 畑人サトの倅。で禍禍ンと戦ってる時の、憑かれて膜に弾かれた時のデス。コッチは巫に憑いて直ぐの、膜に突っ込んで直ぐのデス。」
蒐集家の中には観賞用、保管用、予備、予備の予備と同じ物を幾つも集める者も居るが、鼠んは違う。
同じ肉体でも宿る闇、憑いた闇が違えば蒐集対象としてロックオン。速やかに準備を整え、勇猛果敢な戦いを展開。
獲物を巣穴に持ち帰るマデが戦いなので、決して無理せず無駄の無い動きを追及。『どこ目指してんのか』って? 蒐集家の天辺よ。
気になる相手とイチャイチャするためじゃなく、収集品を眺めてニヤニヤするために鍛えられた体は、この通りバッキバキ。
「オォ、これは凄い。」
お宝を前に唸る明寄。収集品を褒められ鼠ん、御満悦。
「もう二夜で望。これから和山社へ持ち込み、狭間の守神に託します。宜しいですね。」
『嫌です』とは言えない。正答は一つ。
「はい、どうぞ。」
使わしめ、それも狩山神の使わしめに問われたのだ。心の中で号泣する事しか出来ない。
体を覆う闇をガブッと齧ってスッと、振り返る事なく走り去る。対象から十分に離れるまで気を抜かず、決して呑み込まず四肢を動かす。
万が一に備えて用意していた安全地帯に滑り込むと、急いで特製袋にポンと入れ、キュッと閉じる。
ホッと一息ついたらニヤニヤ。
お宝の気配を感じて接近し、発見してから収納棚に納めるマデのアレコレを思い出す鼠ん。その目に薄ら涙を浮かべていた。
あんな事、こんな事、いろんな事があったな。うふふ、あはは。
「調べが済めば戻す、返すぞ。」
少しばかり小さくなるケドね。
「ありがとうございます!」
元気になった。