12-36 珍しいモノなら何でも
山背の社憑き、鼠ん。蒐集癖が強い鼠妖怪である。
今から見れば昔のこと。山背の外れに鼠が二妖、それはもう仲良く暮らしていた。
一妖は姫鼠の隠が融合して生まれた妖怪、アカチャ。もう一妖は赤鼠の隠が融合して生まれた妖怪、クロチャ。
鼠の喧嘩ならチュウチュウで済むのだろうが、それが妖怪だとイロイロ違ってくる。
ヂュウヂュウ雄叫びを上げ、朝から晩までドッタン。いや土煙を上げながらドスン、ドカン。
狸の交尾より激しく、騒がしい。
取っ組み合いの喧嘩を始めて十年後、山背神の堪忍袋の緒が切れる。
『そんなに離れたくナイなら一つになれ』と御叱りを受け、ポッカァン。前足を組んだ状態からビタンと密着。
踏ん張りながら抗うもドウにもならず、強制的に融合。
幾ら意見を述べても暖簾に腕押し、糠に釘。少しも手ごたえが無い。
国つ神の一喝にあい、人の姿に化けた蒐により四肢を縛られた。朸を通され、吊るされた状態で山中引き回し。
その後『鼠ん』として山背社に就職し、社憑きとなった。
「これっ、鼠ん。」
蒐に叱られ、シュン。
「珍しいのに。」
ボソッ。
「珍しいモノを集めたい。その気持ちは良く、良ぉく解ります。でも今じゃない。」
収集癖が強いダケに、通じ合うモノがある。のか?
「はい。今は堪えます。」
『今は』って言ったよ。集める気マンマンだよ。
アカチャもクロチャも整頓下手だったが、融合することで整理するナンテ以ての外な残念妖怪に変身。
歴代祝に泣きついて『格納綴じ』を作成依頼。地中の巣穴に種別、年代順に納められている。
何でも集めちゃう、それが鼠ん。同時に見つけた鳥の羽は蒐に譲るが、先に見つければウキウキ拾って持ち帰る。それが鼠ん。
赤鼠の強い後肢に姫鼠の身軽さが加わり、飛び上がっても、木に登ってフライングキャッチ。狙った獲物は逃さない。それが鼠ん。
「山背の祝には確か、全てのモノを捕らえる力が有りましたよね。」
「はい。」
このままじゃ狩られる、じゃなくて飾られると思った明寄。ポンと大きくなって蒐に問う。
山背の祝は有形・無形の全てを隔離して綴じ、格納する力を生まれ持つ。
時間停止機能付きなので、次代に引き継げば永久保存可。対象が視界に入っていれば無接触で取り込めるので、身柄の拘束や捕縛に有効。
山背社の壁面を飾る鳥の羽コレクションも、全て祝の力でコーティング済。
神議り@出雲でもアチコチ回り、祝の力が込められた特製袋に入れて持ち帰る。勿論、お土産も忘れません。
銘菓『神在団子』、祝にも大好評。
「彗さまから山背の社憑きは、何でも集める。そう伺いまして。」
明寄がニコリ。
「はい、珍しいモノなら何でも集めます。」
鼠ん、キラリ。
「その中に『闇』も、含まれますか?」
「ハイッ。もし宜しければ私の巣穴に、お連れします。」
自慢のコレクションを見せたくて見せたくてウズウズ。イロイロあるよ、闇もネ。ウフフ。
「もし私が探し求めている闇が、その中に有ったら。」
有ったら?
「お譲り、いただけますか。」
明寄の目がキラリと光った。
『いただけますか』と問うたが、コレ命令よ。目当ての品だった場合、黙って差し出せ。そう言っている。
差押令状が必要なら社を通して即、発行。どうだ!