12-35 複眼持ちの宿命
あの闇が、こんなにも早く人に憑くとは思わなかった。
初めて見つけた時、人が居るからと出なんだが『迷わず捕らえていたら』。そう思わずに居られない。
セイ、だったか。カラッカラに干乾びていたが社の司に促され、離れた男に似ていた。父だろう。
アレに潤いを与え、優しくしたらソックリになるだろうな。
悪く生まれついてしまった。もしかすると良那のヨシと同じで、合いの子の闇を。だとしたら急ぎ。
いや待て、骸が無い。
「狭間の守神に御頼みしようにも、セイから切り取られた闇が無ければ、ドウにも為らぬぞ。」
明寄が頭を抱える。
「あっ、もしかしたら。」
彗が何かを思い出した。
「ん、もしかしたら?」
突出した複眼がキラリ。
「蒐さまから『ウチの社憑き、何でもカンでも集めるんだ』と・・・・・・ハイ、聞きました。」
山背神の使わしめ、蒐。今わに見た鳥の羽を『もっと良く見たいな』と思いながら死亡。
隠になって視力が良くなり、生え変わりなどで抜け落ちた鳥の羽を集め始める。
明暗・色調を段階別に変化させながら並べて楽しんでいたら『社の壁を飾っておくれ』と御言葉を賜り、そのまま山背社に就職。
社憑きから使わしめに出世し、現在に至る。
「何でもカンでも、とな。」
「ヒャイ。」
小熊サイズになった田龜に迫られ、ドキドキ。
「ヨシ、行こう!」
エッ。
「行くぞ、彗。進め。」
一般的な田龜サイズになった明寄が彗の額にチョンと乗り、前肢を広げて指示を出す。
瞬時に団の気持ちを理解した彗は使い犲に目配せし、社に一礼。タッと駆け出した。
山在と山衛の間にある山背は、下高川を見下ろす地にある。
名の通り山を背にしているので鼠と鳥が多く、日当たり風通し共に良好。
「さてと。」
明寄を乗せた彗を見送った迅、社を通して御知らせしようとトコトコ。
烏には乗り慣れているが犲に乗るのは初めて。思った以上に上下に揺れ、尾端にある伸縮自在な短い呼吸管がブランブランする。
鳥の羽なら生え際に強く縋れるが、犬の毛は細くて柔らかい。腕立て伏せの要領で前肢を低くし、爪を立てるが効果ナシ。
幾度も飛ばされそうになり絶叫。
気合と根性で耳まで移動し、ホッと一息。良かったネ。
「ふぅ、スッキリした。」
停止した彗は明寄が耳に隠れていると知らず、後肢でカキカキ。
『痒いな』と思ったが止まれず、我慢しながら走っていたのだ。仕方ない。
「ホエッ。」
一方、ポロッと落ちた明寄は大慌て。サッサと巨大化すれば良いのに犬酔いでフラフラ。思考力がガクンと、ビックリするホド大幅に低下していた。
潰されるカモと戦戦兢兢。
「お久しぶりです、蒐さま。」
「お久しぶりです、彗さま。・・・・・・明寄さま?」
いつもは迫力満点なのだが千鳥足、いや目を回したトンボ状態。
複眼持ちの宿命か、グルグルされると辛い。
「わぁ、目を回した田龜だ。あっつめよっと。」
山背の社憑き、鼠ん。目をランランさせながら登場。