12-34 佇立瞑目
消滅の儀を執り行うため、集められた使わしめたち。乗り捨てられたセイの骸を見て驚愕。
社の司カヌに促され、セイから離れたサトを黙って見つめた。
近くには明日の家が建っているが、分厚い膜が音を遮り断っているので、妨げられる事は無い。それでも万が一に備え山在の社憑き、純が出入口を見張っている。
何も知らず横たわる分ティ人は、グウグウ夢の中。
「では。」
山在神の一声で狩山神の使わしめ明寄、山郷神の使わしめ迅、山在神の使わしめ彗がセイを囲むと線を引き、出現した清めの壁を保つ。
山在神が右の掌を空へ、左の掌を地に御向け遊ばす。すると三角柱に底と蓋ができ、密閉空間に泡雪のような光が舞う。
と同時にセイの骸から黒い煙がモクモク上がり、逃げ惑うように渦を巻いた。
「・・・・・・セイ。」
サトが手を伸ばし、ゆっくり口元を覆う。
どうしようもない悪たれ者で、多くの命を奪った罪人。
親として出来る限りの事をしてきたが、もっと他に出来る事が有ったのではナイか。そうしていたら、このような事には。
ぐるぐるグルグル考えて考えて、己を追いつめるサト。その手を優しく包み、カヌが小さく首を振る。
ギュッと結ばれた唇から血が出ているのに気づき、泣きそうになった。
カヌだけじゃない。サトが苦しんでいるのは皆、知っている。だから誰も、何も言えなかったのだ。
ほんの少しでも責めてしまえば、きっと死んでしまう。フラリと姿を消し、そのまま戻らない。そんな気がして、怖くて怖くて堪らなかった。
「すまない。」
絞り出すような声で、一言。
どんなに慈しんで育てても、どんなに厳しく躾けても歪む子は歪む。そう生まれついてしまったら、親が体を張っても伝わらない。
人の本性は善とは限らず、欲に覆われなくても不善となる。人の本性は悪であり、善のように見えるのは偽りなのだ。
人は欲深く、醜い生き物だから。
己の奥底に潜むソレが善なのか悪なのか悩むより、ほんの少しでも善に近づこう、近づけようと努める事で見える景色が変わってくる。
が、万人に出来る事では無い。
「・・・・・・。」
ヌエは何も言えず、黙るしかなかった。
山在にはセイの他にも歪んだ子が居る。セイが酷く歪んでいるダケで、他にも幾人が居るのだ。
それでも、その子たちは人を殺さない。今のトコロは思い止まり、己の行いを律する事が出来ている。
他の子に出来ているのに、どうして。そんな声もチラホラ耳にするが、御婆の呪術を以てしても更生させられなかったのだ。
どうする事も出来ないじゃないか。
「あれは。」
優しい風に頬を撫でられ、顔を上げたサトが驚く。
骸から出た黒煙の渦から『何か』が浮かぶ。
断末魔の叫びが聞こえてきそうなソレは、見様によってはセイに見えた。なのに今、目の前で揺れ動いているソレは嬰児。
小さな手を伸ばして笑っている、ように見えた。
目と目が合った瞬間、山在神に清められたセイの骸がスッと、髪の毛一本残さず消滅。暫くすると角柱の崩壊が始まり、揺らめきながら消えてゆく。
サトは目を瞑って長い間、立ち尽くしていた。純に声を掛けられサメザメと泣く。
隠たちは小さくなった背を黙って摩り、見えなくても寄り添おうと決めた。