12-33 俯首流涕
えっと今の、セイよね。あんなに高く上がって、横に倒れたら痛いわよ。
「セイ、セイ。」
言い付けを破って、膜の外に出た明日。セイの皮を被った分ティ人を抱き上げ、頬をペチペチする。
「ぅ・・・・・・ぅん。」
内心ヨッシャァ! と大喜びするも、薄目を開けて力なく笑う。
「良かぁっ。」
セイの体内に宿る闇を残らず吸収し、いつでも脱出できるよう諸事万端整えていた分ティ。
明日の口から『あ』が出る時を見計らい、突撃ぃ。気合と根性で急発進。速度を保ったまま、対象の口内へ飛び込んだ。
喉の奥から鼻腔、副鼻腔へ進み、一気に脳髄へ。
幼児でもナカナカの衝撃だったが、大人のソレは洗濯槽に放り込まれ、グリンぐるんグリンと激流に翻弄される靴下状態。
負けて堪るかと歯を食い縛って猛進し、速やかに脳を制圧。逃げる鼠に気付かず、大喜び。
「ん? 祝じゃない。巫か。」
まぁ良い。祝なら怪しまれるがコイツは巫。ソレっぽく動いて偽りを伝え、皆に闇を植え付ければ増やせるぞ。
「さて、中へ入れるかな。」
人差し指を伸ばし、ツンツンしながら前へ前へ。
「イデッ。」
ビリッとした、けれど諦めない。気合と根性が有れば、何だって出来る!
「ヲリャァ。」
猪のように猛然と突き進んだ結果。
「入れた。」
おめでとう、と言って良いのだろうか。
「やったぁ?」
何だ、この嫌な感じ。ケッ、また鼠か。
悪いカンほど当たる。
「ハァ。」
ワシはな、明日がセイから離れれば良い巫になる。そう思って見守っていたんだ。
「御婆、考えを変える気は無いんだね。」
「無い。カヌよ、迷うな。」
明日に憑いた闇は巫のフリをして、山在の人にバラバラと散らして蒔くように、気掛かりを与えるだろう。
心に植え付けられた闇が増えれば奪い、その身に蓄える。
御婆の狙いは山在に蔓延った、悪しく弱い闇を消す事。
山守の呪い祝から切り取られた闇は、己で考え動く頭を持っている。けれどソレは賢くはない。
だから闇を吸ってプルプルになったら、丸ごと消して無く気だ。
「あの闇はセイの、いや器の頭を開き、熊をペロリと一呑みにしました。」
彗と純が交代で張り込み、その行動を監視。山在社に戻ると直ぐ、見聞きした全てを報告。
「アレはこの辺りから出られん。」
明日の家を囲むように、清らな膜でクルンと包みました。前後左右、天にも地にも逃げられません。
「そうですね。では私、セイの骸・・・・・・を。」
あんなにツヤツヤしてたのに、年を取って痩せ衰えた人のようにシワシワだ。
「あぁ、吸い取られたか。」
体内の水分を奪われたのだろう。骸が原形に近い形で保たれているが、酷く乾き固まっている。
他の子よりポッチャリしていたが、背は高い方だったセイ。カラカラになって縮み、今では見る影も無い。触れればボロボロと崩れそう。
「セイ。」
御婆に呼ばれ、遅れて来たサトが俯いて涙を流す。