12-31 それでも
御婆に言われた事を思い出し、頭を抱える明日。パチパチと燃える火を見つめ、薄暗い家の中で悶悶と悩む。
「御婆の神懸り、疑えない。」
神口も生口も死口も全て本物。見せ掛け、まやかし物でも無い。
「近くで見て育ったんだもの。わかってる。」
御婆が口寄せを試みて、セイが死んでいると判った。その魂は闇に囚われ、いつか食い尽くされるだろう。
そう聞いて思った。『生口に死口、神口まで』って。
「人を見る目、無いのかなぁ。」
無いよね。
でも私、今でもセイを信じている。セイが人を殺して、何とも思わないバケモノだなんて思えない。
狩り人。
ヒロは助けたセイに蹴り飛ばされ、濁った川の激しい流れに呑まれて死んだ。
ヒサは山から戻らないセイを崖の洞で見つけてキツク叱り、突き飛ばされて気を失っている間に頭を潰されて死んだ。
ゴウはセイに背負うように首を絞められて気を失い、木に縛り付けられて獣に。生きたまま熊に食われて死んだ。
釣り人ミチは沼に落ちたセイを助け、上がろうとした時に頭を石で叩かれ気を失う。膝から下が沼に入ったまま仰向けにされ、胸に杭を打たれて死んだ。
樵のトモは崖の上に生えている木に巻きついた蔓を取ろうと、他の木に縄を括り付けて働いていた。その縄を解き、石を縛り付けて崖に投げたのがセイ。
トモは谷底に落ち、死んだ。
狩り人からイロイロ学んでいたマツは、秋の実りを選んで採っていた。出し抜けにセイに腕を掴まれ、崖の下に落された。
足と腕の骨を折ったケド生きていたのに放っとかれ、苦しみながら死んだ。
樵からイロイロ学んでいたタクは、春の野草を選んで採っていた。セイに獣、それも熊の群れに蹴り落され、助けを求めながら死んだ。
「あぁ、どうして。」
髪を掴んで呟く。
ヒロが死んだ時、ミチは五つ。生まれて直ぐ死んだから母無し子。なのに父まで喪ってミチは、あの子は一人残された。
ヒサには足の悪い父、体の弱い母、幼い弟妹が居た。ゴウは十二で、嬰児の時から親しくしていた娘と契るんだって。そう決まっていたのよ。
「どうしてなの。」
涙を流しながら呟く。
釣り人のミチには妻との間に男二人、女一人。四人目が出来たのを知らずに死んだ。
樵のトモは初めての子が生まれるのを楽しみにしていたのに、身重の妻を残して死んだ。
「羨ましかったの?」
誰も居ない空間に向かって、問う。
マツもタクも十一で死んだ。マツはカンが良く、狩頭からも認められていた。目を輝かせてワクワクしていたわ。
タクは『シッカリしてきた』と樵頭に褒められて、とても嬉しそうだった。
だから、だから殺してしまったの、セイ。他の子も同じように羨ましくて、それで。
褒められ、抱きしめられ、頭を撫でられて皆、輝いて見えたのね。幸せそうだって、そう思ったのね。だから壊したくなった、奪いたくなった、潰したくなった。
「どうしよう。私、選べない。」
もし目の前でセイが倒れたら。それがセイじゃなく、セイの体を奪ったバケモノだと判っていても駆け寄るわ。
「そしたら、きっと。」
私はセイの皮を被った闇に、この体を奪われる。それでも、それでも抱きしめて救おうとする。




