12-30 何て子だい
セイが、あのセイが私の体を狙っている?
そんなの信じられない。セイは真っ直ぐで優しい子。助けに来てくれた人を足蹴にして、勢いを増した川に落すなんてコト出来ないわ。
「明日。」
「お、御婆。」
山在の長老で筆頭 巫が杖を手に、ゆっくり登場。
「社の司から話を聞き、確かめた。畑人サトの倅、セイは死んだ。その魂は闇に食われ、隠となって戻る事は無い。」
「そんな! いいえ違います。私が口寄せした時セイは・・・・・・いえ、狩り人ヒロはセイに殺されてんじゃないと。その、そう言って。」
ゴニョゴニョ。
「止せ。全てが偽りだとは思わんが、死口は。」
ギロリ。
「あっあっ。」
「明日の死口は残された人を慰めるモノ。そう思われ、求められている。悪いとは思わん。がな、明日。己に使うな。」
狩り人ヒロ、ヒサ、ゴウ。釣り人ミチ、樵トモ。十一の子、マツにタク。セイに殺された人は他にも居る。
皆に好かれる人など居らんが、セイに殺された人は良い人だった。残された人は深く悲しみ、その死を悼む。
「御婆、私の口寄せは偽りではアリマセン。」
「神口、生口はな。が、死口は偽りだ。」
長老に見据えられ、身動ぎ一つ出来ない。
「おばぁ、もう、もう止めて。」
ただジッと見つめられているダケなのに、杖を持って立っているダケなのに、どうして動けないの。
「ワシは何も。まぁ良い、聞け明日。その身は闇に狙われ、言い付けを破れば奪われよう。どうする。」
「エッと。」
「言い付けを破って外に出て、セイの皮を被った闇に近づく。言い付けを守って山在に籠り、巫として皆を支える。選べ! 死ぬか、生きるか。」
セイの皮を被った闇? ナニソレ。
「セイは山在の子です。悪しい何かに体を奪われたのなら、ソレから救い出し・・・・・・てっ。」
ズズズズズンと迫られ、口を噤む。
「セイは死んだ。死ねば終わり、生き返らん。明日よ、その体にアノ闇が入れば、死ぬぞ。」
ゾワッ。
御婆は歴代最強と謳われる巫。
山在神と死んだ山在の民を崇め、鎮め奉る。幣を手に舞う鎮魂呪術。神降ろしや神懸りも成功率100% 完璧すぎてコワイ。
狩山九社のうち、祝が居ないのは山在社のみ。それでも対対なのは御婆が居るから。
天賦の才だろう。御婆は善意の意図による白呪術『好』と、邪悪な意図による黒呪術『悪』を自在に操り、どんな悪霊も更生させる闇の敵。
「うわぁ、何アレ。こんなに離れているのにココまで届くのか? こう、ゾワゾワして気持ち悪い。」
分ティ人が縮み上がる。
「きっとアレが祝で、若いのは祝女だろう。」
アビニテヲダスナ。
「はぁ? 何だって。」
ココカラダセ。オレノナカカラ、テデケェェ。
「其の内な。」
ソノウチ? イツダ、ソレイツダ。
何て子だい、もう立ち直ったよ。アレだけ奪ってコンだけ闇を溜め込んで、ソレでも悪いと思えない。
ハッ、こりゃイイ。残らず取り込んで、空にしてから捨てよう。そうと決まれば早いトコ、いただくか。
あぁ待ち遠しい。あの器に入れば、きっと大きな力を手にするだろう。分ティし・あ・わ・せ。
テイから切り取られポイ、湖の中でモヤモヤ。魚から狸、モヤモヤに戻って鹿。そして今、人。次に狙うのも人。