12-29 全てが偽りだとは思わん
人は信じたいモノを信じ、聞きたい事しか聞かない。然ういう生き物である。
「あらっ、エッ。」
「何が『エッ』なんだ、明日。」
山在の社の司、カヌ登場。
「そのバンと出た、ような気がして。」
はい、純の背に乗ってバン! と出てきました。
「社憑きから全て聞いた。もう忘れたのかい? 言ったよね。シッカリと伝えたよね。」
一瞬、眉を顰めたカヌ。明日の乱れた衣をサッと直し、冷静に対応。
「えっと、何を。」
カヌじゃなくても脱力します。
「畑人サトの倅、セイは多くの人を殺した。闇に体を奪われ、人で無くなった。」
『あぁ、その話』という顔でツン。
「山在には」
「私が居るわ。口寄せで、死口で判ったの。ミチの父だった狩り人は、ヒロは殺されたんじゃないって。」
「謝りなさい。」
「え?」
「謝りなさい、明日。ヒロはミチの父だ。今も昔も、これからもミチの父はヒロだけだ。」
「でもカヌが引き取って」
「私はミチの後見、父では無い。幾度も言わせるな。ミチの父はヒロ! 私は宝を預かり、育てているダケ。」
純の後ろで涙ぐむヒロに、ピュイが黙ってグリグリする。他の隠たち、もらい泣き。
「ドッチでも良いわ。」
良く無い!
「狩り人ヒロはセイを助けて死んだの。セイに殺されたんじゃない。」
いいえ。ヒロの死因は溺死ですが、そのヒロを濁流に落したのはセイです。
水嵩を増した川に落ちそうなセイを見つけたヒロは、万が一の事も考えて行動しました。
もし滑っても助けられるよう、生きて戻れるようシッカリと縄の一方を太い幹に、もう一方を己の腰に結んでからセイを引き上げます。
際から離れ、泣きじゃくるヒロを落ち着かせてから木に括り付けた縄を解いた、その時です! セイが勢いを付けて跳び、ガンとヒロを蹴りつけたのは。
泥濘んだ斜面から頭が下方へ向いた状態でズルズル滑り落ち、アッと言う間に背中からドボン。
望月湖に流された骸は魚に食われ、骨は湖底で泥に埋もれたまま。腰に結わえた縄には藻がつき、ユラユラ揺れています。
ココに居るよ、と知らせるように。
「・・・・・・ハァ。明日の口寄せ、全てが偽りだとは思わん。がな、死口は偽りだろう。」
「なにを」
「聞け、明日! 社憑きになったのは殺され、思いを残して死んだ隠が集まって生まれた妖怪だ。いつ、どこで、誰に、どう殺されたのか全て、全て聞いた。この耳でハッキリと聞いた。」
嘘でしょう? 信じない。私は信じない。
「セイは殺し過ぎた。その身に闇を宿し、それが禍を齎す闇に食われて、人で無くなったのだ。見た目は同じでも、もうセイはセイじゃない。」
「うそ、嘘よウソ嘘。」
「嘘じゃない。もし目の前に現れても、決して近づくな。セイの体を奪った闇はな、明日の体を狙っている。」
カヌに強く掴まれた肩が、前後に大きく揺れた。
「その闇は口から飛び出し、口から入って頭に突っ込む。捨てられた体は骸となり、息を吹き返す事は無い。」
腰が抜けたのか、明日が膝から崩れ落ちた。
「ナニ言ってんのかサッパリ分からんが、あの男。フフッ。持ってるな、持ってるな祝の力。ってコトは祝女だ。あの女は祝だ祝だ、ワッハッハ。」