12-28 隠たちは見た
独占スクープ! 明日の口寄せは嘘だった。
助けた少年に蹴り飛ばされ、濁流に呑まれた狩り人〇×さん。『オレはヤツに殺された。殺されたのはオレだけじゃない』と怒りの告発。集団訴訟に発展か?
「すっと前からアヤシイと思ってたんだ。」
「何て言うか『人の心を推し量って言ってんな』って、そんな感じ。」
「そうそう。」
死んじまったんだ、もう戻れない。だからさ、泣くだけ泣いたら前を向いて、しっかり生きてほしい。そう思うよ。今でも変わらず、そう願っている。
泣いた顔より笑った顔を見たい、幸せになってほしい。なんか悔しいケド誰か好いたヤツと契って、穏やかに和やかに暮らしてほしい。
気が向いたら、ほんの少しで良いからオレの事、思い出してくれたら嬉しいな。
男ってのは何て言うか、アレだ。取り決めを守れないのは嫌なんだ。
『すぐ戻るよ』って出たのにさ、戻れないとか無いんだわ。『行ってきます』って言って『いってらしゃい』って見送られたのに、『ただいま』って戻れない。
『お帰り』が聞けないのは辛い。
もう戻れない、戻らないモンを泣きながら待つ姿。泣きたいのを堪えて、ジッと耐える姿。食べ物どころか水も喉を通らない、そんな姿を見る事しか出来ない。
死んでるから抱きしめられない、触れられない。何にも出来ない事が、もう何て言うかさ。辛いしか出てこねぇ。
「オレんトコはまだ良いよ、妻が居るから。」
「幼子を抱えて生きるのは苦しいしクタクタになるケドさ、手を差し伸べてくれる人が居る。」
「けど子が、それも母無し子が残されたらドウよ。」
「兄も姉も誰も居なけりゃ、どうよ。」
「ミチには他の人には無い力が有ったし、継ぐ子だったから良かったけど。」
「ごめん。ちっとも良く無い。」
妻を亡くし、後添えを迎える事なく男手一つで育てていた。そんな愛息を一人残して死んだ、殺されたのだ。恨み辛みを通り越し、憎しみを抱くのは当然。
それでもグッと耐え、闇堕ちせずに見守り続けたのは全て、キレイな姿で愛息に会うため。
ミチには見えない物を見る力がある。もし闇に、憎しみに呑まれたら醜く歪むだろう。そんな姿、見せたくない。
ニッコリ笑って別れた姿のまま、ミチの心の中で生き続けたい。だから耐えた、耐え続けた。
「どうするヒロ。姿、見せる?」
「いいや、止そう。ありがとう、ピュイ。」
「えっと、ピュイは名じゃナイよ。鳴き声だよ。でもウン、イイね。」
鹿の隠、己の名を『ピュイ』にする。
「ピュイの名が決まったトコロで、アレ。」
「あぁ、どうする。」
・・・・・・。
「あのさ、川の向こうで倒れては起き、倒れては起きしてるの、セイじゃナイか?」
純の中で議っていた隠たちが、小さく溜息を吐いた。
早く気付けよ、ココだよココ。
「痛ってぇ。」
繰り返し空に身を躍らせ、ドタンと落ちて傷だらけ。
「フゥ、落ち着け。何かが張られているからな。祝の力が有っても、気づき難いんだろう。」
明日は巫で、祝ではアリマセン。
「ヨシ、もう一度。テイッ。」
横にピョンと飛び、肩からドスン。ピョン、ドスン。ピョン、ドスン。ピョン、ドスン。
「セイ、信じていたわ。」
ダメだコリャ。