5-38 幸あれ
熊を仕留めてすぐ、血抜き。腸を抜き、食べますか? と差し出された。思わず、頷いてしまった猫股と妖狐。
モグモグしながら、考える。八つの子とは思えない手際の良さ、手捌き。末恐ろしい。
「ツル。狩り人の子は皆、熊を捌けるのか?」
「つまり・・・・・・コウが一人で仕留め、捌いた。という、ことでしょうか。」
「そうだ。」
「・・・・・・さすが、ジロの孫。」
「熊を狩っては、いけないのですか?」
「そんなことはない。熊でも熊でも熊でも、好きに狩れ。」
「乱雲山って、熊が多いんですか?」
「この熊。何度か仕留めようとしたのだが、逃げられてな。困っていたんだ。」
「そうですか。いきなり襲い掛かって来たので、驚きました。」
「あっさり狩ったぞ。」
「あっと言う間だったな。」
「私も見たかったな。」
カラカラ笑う三妖怪。キラ、早かったね。おかえり。
「ま、まぁ。せっかくの熊肉です。おいしく、いただきましょう。」
実はフク、大の肉好き。特に、熊の肉! 食べると、肌がプリプリになる。
乱雲山は豊かなので、夏でもポッチャリ熊が多い。毎日でも食べたい。
エイといい、フクといい。祝には、食いしん坊が多いのか?
「コウ、おかえり。良かった、良かったよ。」
「ありがとう。」
悪しき妖怪に攫われて、戻ったコウ。それだけではなく、熊まで狩ったのだ。皆、大騒ぎ。三つの村にも熊肉が届けられた。
乱雲山で暮らす子らにとって、コウは憧れの人となった。コウにはツウ、ツウにはコウ。共に生きると誓った二人のことを、知らない者はいない。
どんなことがあっても、離れない。いつか、そんな人と出会えるのかな? 乱雲山に、おませさんが増えた。
じっくりコトコト煮込んだ熊鍋。酒をたっぷり使うので、肉が固くなることはない。
おなかいっぱい食べて、ぐっすり眠る。一人では生きてゆけない。だからこそ、助け合って生きる。
「和み村。」
「なあに?」
「新しい村の名さ。なごやかに暮らせる、そんな村にしたい。だから、和み村。」
「良いわね。作りましょう、和み村。」
微笑むツウを見て、頬を染めるコウ。
「オレも入れてくれ。コウほどじゃないけど、狩れるぞ。」
「狩りは・・・・・・釣りなら出来る。」
「オレは・・・・・・畑は好きだ。」
「オレは、田んぼ。」
ノブ、ダイ、ケイ、ケン。四人の子らが、熱く語る。その様を見て、フクは思った。幸あれと。