12-27 異議有り
信じられない。いいえ、信じたくない。
確かにセイは何と言うか、思うまま生きているわ。でもソレだけ。あの子が人を、助けに来てくれた人を殺すなんて。
・・・・・・思えば、そうね。セイの妹や弟が生まれる度、死んでいる。引き摺るように連れて入った森で、その姿を消している。
姉さんは山在に居るケド兄さんは出た。その兄さん、生きているのかしら。
「でも、だからってセイが殺したと。」
『言い切れない』と言えないのはナゼ。
「心のドコかで私、疑っている?」
信じたい。信じたいのよ、私はセイを信じたい。
だってセイだけよ。口寄せしか出来ない私に、いつもニコニコしてくれるのは。あの子だけよ、丸ごと信じてくれるのは。あの子だけなの、私を認めてくれるのはセイだけ。
口寄せしたらね、みんな涙を流すの。『良かった』とか『信じていた』とか言って。でも少しすると『ありがとう』って、寂しそうに笑う。
「はぁ。顔を洗って、それから。」
あら? そうよ、どうして気付かなかったのかしら。セイを助けて戻らなかった人で、口寄せを頼まれてナイ人が居る。
「狩り人のヒロ!」
えっ、オレ?
「社の司に引き取られたから、きっと頼み辛いのね。」
いや、そんな事はない。って、えっと・・・・・・始めちまったよ。
タッと家を飛び出し、口寄せの儀式を始めた明日。
村外れ、ポッツン度が高いとはいえイカンよ。もっと、こう恥じらいトカ? ちゃんとしようよ、考えよう。
寝起きなので衣も髪も乱れている。なのに整えず手拍子、足拍子。ずんチャッどんチャッ、ぶんチャッチャ。ドドドんチャッチャ、ぶんチャチャずんチャ。
次第に複雑になる拍子、乱れる足元。目を血走らせ、息を弾ませ踊り唸り、そして。
「キエェェェッ。」
茹蛸のように真っ赤になって、浮かび上がった血管がプチンと切れそうな叫びを披露。
あぁ、そうか。村外れでの一人暮らし、獣害に悩まされているのでは。なんて思っていたケド心配ないネ。
その叫びを聞けば、どんな獣も尻尾を巻いて逃げるわ。
「ウゥゥ・・・・・・。」
社憑きになった純が姿を隠したまま、体と耳をペタンと伏せて呻いています。キツイよね、鹿だモン。
「気を確かに持て。」
「傷は浅いぞ。」
人の隠たちが口口に、鹿の隠を励ます。因みに外傷は無い。
「ピュイ。」 ナンダヨォォ。
思わず威嚇した鹿クン、涙目。恨めしそうに明日を睨み、ポッカァン。
胸やら腿やら露出したままバタンと倒れ、イイ感じに隠れていました。なのに衣を直さないままスクッと立ち上がり、目の遣り場に困る姿で胸を張る。
うん、牡鹿じゃナクても固まりマス。人の隠たちも『あちゃぁ』な感じで頭を振ったり、顳顬を押さえてるヨ。
「ねぇ先の、番を求める叫びだったの?」
違います。
「人の牝って、鹿より凄い声だすんだね。」
ソレはドウなんだろう。個人差がって、イヤイヤ。
秋に『ケーン』って、牝鹿を呼ぶ牡鹿の声。詩歌に多く詠まれてるケド情熱的よ。
「皆、聞いてくれ。オレはセイに殺されたんじゃない。助けようとして川に落ち、流されて死んだんだ。」
「オイッ!」
異議有り。