12-26 親心
胸を押さえてハクハクするサトの背を黙って、落ち着くまで摩る事しか出来ない。
どんな悪たれでも荒くれでも、親にとっては幾つになっても子。
セイの親だから兄だから姉だからと噂や思い込み、偏った考えでイロイロ決めつけ責め立てる。そんな人が幾人も居て、何を言っても聞く耳を持たなかった。
幼子を亡くし妻を亡くし、上の倅は山在から姿を消す。
好いた人と契った娘は追い出されはシナイが、とても生き難そうにしている。フラッと死んでしまいそうで、放っておくと手遅れになりそうで怖い。
姿を見たら家に帰るまで、そっと見守っている。
サトも気掛かりだが何とか踏ん張っていたので、姿を見たら声を掛けるようにした。日に日に瘦せ衰え、ボンヤリする事が増えたのでどうしたものかと。
そんな時だ、セイが多くの人を殺していたと判ったのは。
「なぁサト。ヤスんトコに双の子が生まれたろう。シズだけじゃ厳しそうだ。」
ヤスとシズの間に双子の男児が生まれた。
長男セキと長女チカは年子で、二人に寂しい思いをさせている自覚はあるが、どうする事も出来ずに困っている。
「でしょうね。」
ヤスは樵で、家を長く空ける事が多い。幾ら三度目の出産でも生まれたのは双子。イロイロ勝手が違う。
「でな、どうだろう。暫くの間、ヤスが戻るまでで良い。セキとチカを預かってくれないか。」
幼い兄妹が、あまり笑わなくなった。声を掛ければニコリとするが、いつも寂しそうで辛そうで。
「ウチの子は姉弟でしたが、同じような時がありました。私で良ければ落ち着くまで、幼子を預かりましょう。」
「そうか、引き受けてくれるか。ありがとう。」
シズはサトと同じ畑人で、小さい時から良く知っている。家も近い。畑の事も教えられるし、セイが戻らない事を伝えれば怯える事も無いだろう。
そう、セイは戻らない。
あの子は罪を犯した。ソレをすれば今までと同じ暮らしは出来ない。今までとは全く違う事になる。
そんな行いを、許されない事を繰り返し繰り返し・・・・・・して、しまった。
「今から、だと遅い。明くる日が良いな。昼までに行って、シズに話すよ。」
「はい。」
アレコレ揃えるより、使い慣れた物を持ってきてもらおう。忘れ物をしても直ぐだ。要る物は揃っているし、困る事は無いと思うが、ドウだろうな。
「じゃぁ、明くる日に。」
「はい、明くる日に。」
良く眠っている。大きくなったな、ミチ。
「鹿の口から、なんですね。」
山在の社の司、カヌに問われて苦笑い。といっても純は鹿。分かり難いのは当たり前。
「えぇ。私だけでナク皆、同じでした。」
前はウッスラとしか見えなかったが、社憑きになった事で変わったのだろう。鹿の後ろに、隠になった皆の姿がハッキリ見える。
「カヌさま。ミチの後見になってくださり、ありがとうございます。」
カヌはミチの父ではなく、後見になる事を選んだ。
ミチはヒロの子。父も母も死んでしまったが、だからと己が新しい父になる事は無い。そう考えた。
「これからは皆と、社憑きとして勤めます。この子には見えるでしょうが、黙って見守ろうと決めました。」
純は妖怪、見えない人とも会話できる。けれどジックリ話し合い、生きていた時に知り合った鹿にも人にも話し掛けず、黙って見守ると決めた。
それから家を回り、会いたかった人に別れを告げる。といっても独り言。
全て片付いたら湖で別れた牝鹿に会いに行く、のだが鹿は鹿。一途で純情な牡鹿が耐えられるかドウか。