12-25 今まで良く耐えた
セイが言い付けを破り、気の弱い子を連れて山に入った。
ツヨが居て良かったよ。『戻ろう』と言われたのに拒み、あの子はセイに見捨てられる。それで良い。
ツヨが他の子を連れて戻ったから、セイを置いて戻ったから、大きな騒ぎにならなかったんだ。
はぁ。
他の子は聞き分けが良く、真っ直ぐ育ったよ。なのにセイは、セイだけは違う。
セイの後に生まれた子は死んでしまった。考えたくナイが皆、セイに殺されたんだろう。
上の倅は山在を出て今、ドコで何をしているのか分からない。生きていてくれれば、笑えるようになったならソレで良い。
どんなに離れていても、もう会えなくても私は親だ。幸せを願っている。
「サト、少し良いかい。」
「長。」
ハハッ、やっぱり。
人の姿をしているのに言の葉が通じなくて、心の隅っこで思ったんだ。あの子は人ではなく、人の皮を被ったバケモノじゃナイかって。
森に入って戻らなかった人、村から消えた子も全てセイが殺した。
隠になって戻った人が力を合わせて、カノシシの骸に飛び込んだ。それで判った、やっと明らかになった。
申し訳ない。
この身で償えれば良いのに、この命を捧げても死んだ人は戻らない。戻らないんだ。何をドウしても、どんなに悔いても!
生きなければ。どんなに辛くても苦しくても、死んでしまいたいと思っても生きる。生きて償う。
どうすれば償えるのか分からないが命の続くだけ、あらん限りの力を尽くして出来る事をする。
それがセイの親になってしまった私に残された、たった一つの事だから。
「そう思い詰めるな。悪いのは、多くの命を奪ったのはセイだ。」
それは・・・・・・そうだが。
「ワシは長として決めた。山在を守るため、闇に憑かれたセイを捨てる。」
はい、どうぞ。
「闇の狙いは明日だろう。カヌが村から出ぬよう、キツク言い渡した。中に居れば闇に憑かれる事は無い。セイが闇に憑かれた事、多くの人を殺した事も伝えた。それでもセイを見つけ、外に出たなら捨てる。」
エッ。
「山在に祝は居ない。祝の力を持つ者が生まれないのは、きっと何か有るんだ。それが何かは分からん。がな、この地には巫が居る。」
ゴクリ。
「祝ではなく巫が居るのは、こうなる事が判っていたから。ワシはソウ思う。」
パチクリ。
「なぁサト。人ってのは皆、真っ新で生まれる。けど中にはセイのように、悪く生まれつくのも居る。親が悪いんじゃ無い、縁の者が悪いんでも無い。そう生まれちまうんだ。」
ツゥっと涙が一筋、サトの頬を伝う。
「今まで良く耐えた。」
「長・・・・・・・。」
姿を消して聞いていた純は、ただ黙って聞いていた。純の中にいる人たちも。
幼子を残して死んだ父、老いた母を残して死んだ倅。好いた人を残して死んだ男、幼い弟妹を残して死んだ兄。
引き摺られるように連れ去られ、頭を割られた幼子。弟妹を質に取られ、崖に突き落とされた兄姉。
挙げれば切りが無いので割愛するが、セイに殺された人たちは皆、サトを恨んでいない。寧ろ、気の毒に思っていた。
「セイが動かなくなったら、どうぞ皆さま」
『お気が済むまで』そう続けようとしたのに、なぜか言の葉が出ない。言えない。アレでも倅だから。