12-22 悶絶躃地
さぁて、人の体を奪えた事だし。ウフフ。人里へ行こう、そうしよう。オウッ。
「フンふフン、フンふふフン。」
人の子の体を乗っ取った分ティ、略して分ティ人。足取り軽やかに山在へ向かう。
「ブヘッ。」
勢い良く清らな何かに弾かれ、派手に尻餅をつく。
「もう、何だよコレ! 痛ってぇ。」
バンと叩いたら、掌がジンジンした。見ると真っ赤っかに腫れ、とっても痛そう。いや痛いんだけど、もっと痛くなり涙目。
「・・・・・・マズイな。」
この体をポイして他に、と考えていたのに。
「試すか。」
近くに落ちていた小枝を拾い、思い切り打ッ刺した。ら、勢い余って顔面から突っ込む。結果?
「イデェェェェェェ。」
悶絶躃地。
苦しみ悶え、転げまわって気絶した分ティ人。
鼠が逃げた後、近づいたのは嗅覚とカンが鋭く、強面な大男コワ。山在の狩頭である。
「こりゃイカン。捨てて戻るぞ。」
???
「オレらには判らんが、この辺りに清らな何かが有る。コレはな、それに弾かれて伸びたんだ。」
膜が張られている辺りを手でグルグルして示し、連れて来た狩り人に良く分かるように説き明かす。
『コレ』とは分ティ人、つまりセイ。
「コワの言う通りです。ソレは禍禍しい闇で魚から狸、狸から出てモヤモヤに戻り魚。魚から鹿、鹿から人、そこに転がっているセイに乗り換えました。」
人の言葉を操る鹿に一同、ポカァン。
「カノシシよ、なぜワシの名を知っている。」
いち早く立ち直ったのは狩頭、コワ。
「私は、いえ私たちはセイに殺され山在に戻った隠です。今、話しているのは狩り人ヒロ。」
「ヒロって、ミチの。」
「はい、ミチの父です。良く聞いてください。セイは闇に体を乗っ取られ、人で無くなりました。山在は神の御力で張られた膜に守られ、清められています。山在の人なら出入り出来ますがセイは、人を殺し過ぎたセイは乗っ取られる前から、闇を宿していたので入れません。」
皆『ハッ』として、直ぐ『ゾッ』とする。
「セイの姿をしたソレが気付けば、狩り人の誰かに取り憑くでしょう。セイの体では入れませんから。」
ゴクリ。
「皆さん、お願いです。セイを捨てて今すぐ、村に戻ってください。そして叶うなら倅に。いえ社の司カヌに、見聞きした全てを伝えてください。」
カノシシの骸に取り憑いたのは、セイに殺され山在に戻った隠たち。カノシシも体を乗っ取られたから、人の隠と力を合わせたのだろう。
オレの言の葉、隠たちの言の葉を聞き皆、考えを変えた。よな?
「皆、聞いたな。コレはセイだがセイじゃない。賢い獣なら食わんし、置き捨てしても死なんだろう。」
「そう、だな。」
ウンウン。
「よし、帰ろう。」
ウンウン。
「それが良い。」
!!!
「あぁ。我は山在神の使わしめ、彗。姿を見せねば伝わらんから、見せる事にした。」
日が出ているのに姿を現した犲に一同、ポッカァン。
「ソコのカノシシ、付いて来い。」
「ハイッ。」