12-21 反社会性人格障害
えっと、どうしよう。
中りに行こうか。いやソレより茂みに隠れてってココ、森の中。藪だ藪、藪を探せ。人里から離れているんだろう、ボウボウだ。
ってコトは見つけたぁ! エイッ。
「逃がすモンか。」
短い足でタッタと走りながら、三の矢を番えて放つ。結果、藪の中にポトッ。
「ケッ、下手っぴ。」
分ティ鹿。思い切って藪から出て『あっ、シマッタ』な芝居を打ち、狩らせる事にする。
「待て待て待てぇ。」
ピョン。
「えっ、エイッ。」
トンッと当たり、ポトリと落ちたがソレはソレ。華麗な滑りを披露し、『ヤラレタァ』と演技。
あまりの下手さにズッ転けたのでは無い。
「ヤッタあっ、ヴォ、ヴォエッ。ヴッ。」
『ヤッタァ』と喜んで口を開けたので、素早く鹿の体から脱出。気合と根性でセイの口中に突撃。気道から鼻腔、副鼻腔へ進み頭部に侵入。
喉を引っ搔きながら苦しみ、バタンと倒れた時に後頭部を打ち付けグワンと揺れた。それでも挫けず諦めず猛進し、速やかに脳を制圧。
人の体ゲット♪
「やった、奪えた。」
格闘中、鼠に齧られた事に気付かず大喜び。
「イイね、この体。闇を纏っている。」
香り高くコクがある。こんなに円やかな口当たりの闇、稀にしか味わえない。はぁぁ美味しい。
ん、何だい騒がしい。どんなに暴れても叫んでも何も変わらない。この体、分ティがいただいた。『返せ』だって? ナニ言ってんだい。
「ホゥ、殺してんねぇ。」
ナッ、オレは誰も殺してない。
「弟に妹、母。助けてくれた狩り人を蹴飛ばして、濁り水の流れに呑ませたね。殺したね。」
そっれは、ヤツが弱かったから死んだんだ。狩り人なんだ、泳ぎ切れなきゃマズイだろう。
「ハッ。おやおや狩り人に釣り人、樵に恨みでも有るのかい。」
弱いから死んだんだ! オレは悪くない。何にも悪くない。死んだヤツが弱いんだ、強けりゃ生き残れた。それだけの事だ。
そうさ、オレは悪くない。悪くない。
「ホウ、なら諦めろ。」
エッ、何を。
「聞こえるかい。死んだ、いや殺した人の声が。」
『もう直ぐ子が生まれるんだ。だから死ねない、死にたくない。』
『どうして。』
『母を亡くしオレまで死んだらミチは、たった五つの子が親無しになる。』
『痛いよぉ、痛いよぉ。』
『オレが何をした。殺したいと思うような事、したか。殺したいと思われるような事、したか。』
『誰か助けてぇ、助けてぇ。』
『こんな所で死んで堪るか! 生きて、生きて戻る。戻らなきゃイケナイ。足が悪い父さん、体が弱い母さん。幼い妹や弟を残して死ねない。』
・・・・・・許さない! 許さないぞ、セイ。
谷底へ落ち、死んだ人。頭を割られ、死んだ人。濁流に呑まれ死んだ人。杭を打たれて死んだ人。生きたまま獣に食われ、死んだ人。
獣の群れに蹴り入れられ、助けを求めながら死んだ人。崖下に落され、苦しみながら死んだ人、人、人、人、人。
「アッアッ、アァァァァァ。」
血走った目に囲まれ、責められ、足を掴まれ絶叫。




