12-20 一本調子の話し方
セイの弟妹は育たず死亡。母は心労のあまり倒れ、二年前に死亡。
姉は嫁ぎ先で肩身の狭い思いをしながら、なんとか生きている。兄は母を葬って直ぐ、山在を出た。
一人残った父、サトは農業に従事している。
疲れ切ってしまったのだろう。虚ろな目で遠くを、黙って見つめる事が多くなった。
毎日のように頭を下げて回るので、ずっと下を向いて歩いている。
「確かにセイは山在の子だ。けどよ、今でも悪いのにトンデモナイ何かに憑かれたら、そりゃもうドウしようもねぇよ。違うか?」
狩り人の一人が切り出す。
「そうだな。その悪いのが山在で狙うとしたら、カヌかミチの力だろう。」
ウンウン。
「巫ってのも考えられるが、無いな。」
「大きな声じゃ言えないがアレ、どうなんだ?」
ウニャウニャ何か言いながら、結った髪が乱れるホド激しく頭を振る。倒れるまで手足をバタバタ動かし、ぐるぐるバタン。暫くしてムクッ。
で、いろいろ言うんだけどさ。あれ、真か?
悪かナイよ、求められている事だし。
けど思うんだ。聞こえの良い事を言って、喜ばせてナイか。気にしてる事を言って、思うように誘い導いてナイか。
気を引いて煽てたり、『悪い事が起こるかも』って気にさせてナイか。
「なぁ、もし明日が乗っ取られたら。」
「セイよりマズイ事になるぞ。」
一同、真っ青。
「セイも明日も何と言うか、他との繋がり? をさ、避けてないか。」
「あぁ、そうだな。」
ウンウン。
「もしよぉ、村外れで会った時にヒョイと。」
「セイに憑いたのが、明日に移ったら。」
・・・・・・。
「そうなる前にセイを、山在から遠ざけてください。」
社の司、カヌが言い切る。
「イキナリすいません。けれど彗さまがコチラへ、悪しい何かが近づいていると。」
「ありがとう、カヌ。オレが良いって言うまでミチと、社の離れから出ないでくれ。それとソレ、今どの辺りに居るか分かるかい。」
「山在の向こう、狩山の杜に居る。」
「皆、聞いての通りだ。ソレが杜から出る前に、山在の外で囲む。」
「オウッ。」
フンふんフフンっと機嫌よく、セイの後を付ける分ティ鹿。そろそろ人里に入るカナなんて事を考えていた時、ビクンとする。
「この感じ。」
狩り人、だけじゃない。その後ろに。
「ヒャッ。」
狸に憑いていた時、思い切り蹴り飛ばした犲。つつ、使わしめだ。
いや落ち着け。そんなに近くに、いたぁぁ!
「コマッタナ、ドウシヨウ。」
一本調子の話し方になるの仕方ない。
軽い足取りで近づく人の後ろに彗、発見。分ティ狸ィだった時の記憶が脳裏にババンと蘇り、ガクガクぶるぶる。
「コノママデハイケナイ。ソウダ、アノコデテヲウトウ。ウンウン、ソウシヨウ。」
祝の力を持つ人ではなく、セイで我慢する事にした分ティ鹿。大急ぎで作戦を練る。
ピョンピョン、クワッ。
「あっ、カノシシ。」
練習用の弓に矢を番え、グッと引いた。パッと射るハズがポトリと落ち、チッと舌打ち。二の矢を番えてシッカリ狙い、放つもポトリ。