12-19 オレの考えは変わらない
何かに体を乗っ取られたセイを生かすか、殺すか。
山在に巫は居ても祝は居ない。カヌには見えないモノを見る目が有るが、何かを祓う事も清める事も出来ない。
悪い何か、禍を齎す何かが山在に近づいている。
けれどソレをドウコウする力を持つ人は居らず、体を乗っ取られたのが幼子でも、迷わず命を奪わなければ滅ぶ。
頭では解っていても、心が追いつかない。
「セイは前から、悪かった。」
「歩くようになって、何と言うか。」
「仔犬に石を投げて笑ったり。」
「獣を捌くのを見て、嬰児を。」
「あの時は驚いた。」
狩り人たちがポツリポツリと語りだす。それら全て、幼子の行いとは思えない。
生まれる前から何かに取り憑かれていたのか、御山の外で生まれているという合いの子か。いや、そうなら彗さまがドウにか為さるハズ。
合いの子なら皆に隠れて生き血を啜ったり、煮たり焼かずに獣の肉を食らっていたのだろうか。
森で死んだり戻らなかった人たちも、もしかするとセイに殺されたり、食われたのでは無いか。
「確かめてから決められるなら、そうしたい。」
悪たれ者でも、今は山在の子。悪い何かが憑いている、としか思えないが、見分けられない。判らない。
「・・・・・・そう、だよな。」
「あぁ。」
他の狩り人だって考える事は同じ。救えるなら救いたい、守れるなら守りたい。それが悪たれでも、誰でも。
生きるため、食べるために獣を狩る。獣は狩るが、皆で食べられるダケしか狩らない。
何かあれば山在を、皆の幸せを守るために戦う。戦うが、話し合いで済むならトコトン話し合う。
そういうモンだ。
「見えない物を見る力を持つのは、社の司カヌと継ぐ子ミチ。知っての通りミチは幼く、連れ出せない。」
母はミチを産んで直ぐ、死んだ。
父はミチが五つの時、言い付けを破って山に入ったセイを庇い、濁流に呑まれて溺死。
「カヌに何か有れば後見が居なくなり、ミチを山郷か山背に託す事になる。」
孤児となったミチの後見となり、引き取ったのはカヌである。
己の子としなかったのは後添えを迎えず、男手一つでミチを育てたヒロを心から尊び、敬っていたから。
「五つで父を、八つで後見を失えばドウなる。」
父が死んだのは、セイが言い付けを破って森に入ったから。今度だって言い付けを破り、気の弱い子を連れて森に入っている。
「・・・・・・悪たれ、だけどさ。」
「言い付けも取り決めも破るケド、さ。」
「悪たれ口を叩くけど、山在の子なんだよな。」
道理を弁えず乱暴で、無法な言動をする。憎まれ口、悪口も当たり前。隠れて言うから陰口なのに、ソレを大きな独り言とする。
誰かに注意されれば嬉嬉として言い退け、旗色が悪いと恫喝。最終的には暴力で解決しようとするのだ。もう、どうしようも無い。
陰でコソコソ言うより、面と向かって言った方が良いのだろうが、何事にも限度がある。
遣られたら遣り返す、言われたら言い返す。なら、まぁ分かる。けれどセイは誰かを、何かを傷つけなければ生きられナイらしい。
見捨てられてもオカシク無いのに助けを求め、その結果、他の誰かが命を落しても何とも思わない。花を供える事も、手を合わせる事もない。
遺族に対し、『弱いから死んだ』だの『守るのは当たり前』だの言い、その顔に唾を吐く。
「皆の言いたい事は分かった。で、どうする。オレの考えは変わらない。」