12-18 生かすか、殺すか
気の弱いツヨが口を固く結んだまま、ニコリともシナイ。その後ろに居る子らも同じ。子が二人一組で手を繋ぎ、何も言わずジッと見つめている。
『いつもならセイが』と思い、ハッとした。あの騒がしい子がドコにも居ない。この子らは叱られると、そのまま受けとめようと心に決めている。
「何が有った。」
「はい、村長。」
厳しい叱責を受けるのを覚悟し、村長に詳細を報告するツヨ。それを聞きながら頭を抱えたくなる長。
長はカヌから、禍を齎す何かが狩山に入った事を聞かされた。
ソレが何なのか分からないが『獣の体を奪って、新しい器を探している』。『乗っ取れる人を探しているのだろう』とも。
「話は分かった。皆、一月。村の外に出るな。良いな。」
「ハイッ。」
一か月の外出禁止を言い渡され、ホッとする一同。厳しい罰だが、もっと厳しい罰を与えられると思っていたから。
「じゃぁ、真っ直ぐ帰れ。」
「はい。」
ペコリと頭を下げ、小さく手を振って別れた。
皆が家に入るのを見届けてから、ツヨが狩り小屋に走る。
理由は一つ。森の中で感じたのは、他の生き物とは違う何か。アレは村に禍を齎す、恐ろしい物に違い無い。
アレがカヌのように見える目を持っていても、隠して見えなく出来たなら。もしソウなら体を乗っ取られたセイが涼しい顔して、怪しまれる事なく村に入るだろう。
アレの狙いが何なのかサッパリ分からない。けれど人を食らうなら、頭を乗っ取り増やす気で居たらドウだ。
隣の家に嬰児が生まれた。小さくて柔らかくて温かい、落したら死んじゃうような命。やっと生まれて皆、とても喜んだ。なのに、もし乗っ取られたら。
大きく育ってほしい。強い子に育ってほしい。歩けるようになったらイロイロ教えて、楽しそうに笑うのを見たい。
だから逃げちゃイケナイ。コワイけど、逃げずに戦え!
「父さん、聞いて。」
いつも控え目なツヨが大きな声を出し、狩り小屋に飛び込んできた。
「どうした。」
狩頭、コワが問う。
初めは『あぁ、またか』と思った。セイの行い、言の葉も酷く皆、頭を悩ませていたから。
けれど、この度の事。『またか』では済まされない。
「ツヨ、山在社へ行け。今の話、残らず全てカヌに。社の司に御伝えするんだ。良いな。」
「はい。」
ツヨが駆け出す。
「・・・・・・皆、どう思う。」
コワに問われ、ゴクリ。
「オレはな、セイが人で無くなったと思う。」
カヌは考えた。全て隠さず伝えれば、きっと酷く怖がらせると。
狩り人や樵など、村の外に出る人は多い。民の中には、その人たちを遠ざけようと考える人も出てくる。だからと誰にも伝えなければ何か有った時、皆を守り切れない。
伝えるなら長、頭たち。そう決めた。
話を聞いた人は思う。もしソレが村に入れば、どうする事も出来ずに滅ぶ。戦うなら、遠ざけるなら村に入る前。
乗っ取られたのが子でも迷わず、その命を奪わなければ守れない。
「村に入る前にオレが仕掛ける。その動きを見て、決めてくれ。セイを生かすか、殺すか。」