12-17 取り決め
流連川と下高川を越える南路を避け、急川と冷泉川を越える北路を選択。急川越えも難しかったが、冷泉川はアブナカッタ。
「ジヌガドオモッダ。」
ゼイゼイと辛そうに、肩で息をする分ティ鹿。ハァァっと長く息を吐き、スゥっと吸う。
「ヨシ、行こう。」
山在神の使わしめ、彗に見つかれば終わりだ。一蹴りで下高川まで飛ばされ、ボチャンと落ちて望月湖へ。
で、また遣り直し。
分ティ狸ィは魅惑の我儘ボディだったので、湖に流れ着いて直ぐ緊急脱出できた。けれど分ティ鹿は驚くホド細く、のっ引きナラヌ破目に陥る。
病める時も健やかなる時も・・・・・・なんて、とてもじゃナイけど誓えまセン。『体目当てだったのね!』って、何を今さら。
それが何か?
「戻ろうよ。」
人の子みっけ。わぁ、いっぱい居る。ルンルン。
「ねぇったら。」
「うるせぇ! 戻りたきゃ一人で戻れや。」
目の前に飛び出るのは鼠ばかり。大物を仕留めて大人に認めさせたいセイを苛立たせていた。
「ウッ、もう知らない。セイを置いて戻ろう。」
バッと振り返り、他の子に声を掛けた。
狩頭の末息子は泣かずに生まれ、逆さ吊りで尻をペンペンされる。
ゲポッとして控え目に『ほぎゃぁ』と泣いたが産婆から『育たないカモしれない』と言われ、『強い子に』との願いを込めて『ツヨ』と命名。
体が小さく気も弱いが、カンの鋭さは親譲り。
分てぃ鹿の気配を即座に感知。危険を察知し、他の子を連れて村に戻る事を選択する。
「うん、そうだね。」
「みんな戻るよ。置いてっちゃうよ。」
セイが怖くて逆らえず、嫌イヤ連れてこられた子らが言う。控え目に『戻った方が良いよ』と伝えるも、その思いは全く伝わらない。
「行こう。」
ツヨに言われ、コクンと頷き歩き出す。
アレは危ないヤツだ。あの動き、セイに狙いを定めたな。悪く思うなよ。『戻ろう』とハッキリ伝えたのに残ったんだ、もう知らない。
急いでココを離れ、遠回りして戻ろう。オレが気付かないダケで、他にも潜んでいたら村に禍を齎す事になる。
「コッチ。」
振り返らず、右の手で腿を小さくパンと叩いた。子らは黙ってツヨに従い、転ばないよう気を付けながらスタスタ歩く。
振り返らないのは『危ない』。歩きながら手で腿を一つ叩くのは『遠回り』。右を叩けば右回り、左を叩けば左回りして戻る。
子だけで森に入るのはイケナイ事だが、セイに逆らえば何をされるか分からない。だからツヨは小さい子にも判るよう考え、『取り決め』としてシッカリ教えた。
他にも沢を越える時は手を繋ぎ、足を滑らせても流されないようにピョンと飛ぶ。ツルッとしても慌てず騒がず、繋いだ手を強く握る。
沢でも幼子が足を滑らせれば、そのままズルズル流されてしまう事。谷に落ちれば命は無い事も伝えた。
「ただいま。村長、少し良いですか。」
子を代表して、ツヨが声を掛ける。
「わかった、聞こう。」