12-13 狸ってのは
ぐふふ、人里みっけ。いやぁ、長かった。
トンデモなく高ぁい崖からポイされて、溪に落っこちドンブラコ。流れ着いた湖で踏ん張って、流れ込む闇をドンドコ取り込み、大きくなったヨ。
でさぁあ、闇が流れて来なくなって。あれドウしたのカナって思ったんだ。待っても待っても闇一つ、モヤモヤ一つ取り込めない。で気が付けばフヨフヨ。
あの時は焦ったな、うんうん。
「にしてもココ、息苦しいな。」
ヨボヨボを見失わないようにトコトコ追って、人里みつけてフッフッフ。『イイの、居らんかぇ』までは良かった。
「イデッ。」
何だよ、なにか有るな。見えないケドさ。ツンツン。
「こりゃ守りの力だな。」
ってコトは祝の力を持つのが居る。のは良いけど痛い、痛いよ。前足が・・・・・・透けてるぅぅ!
慌てて山郷から離れる分ティ狸ィ。その体から溢れ出る闇を味見した何かが、森の木からスッと離れ、仔犬の姿になった。
「どうだった、チロ。」
「はい、迅さま。あの狸に憑いたのは山守の呪い祝、テイです。」
山郷の社憑き、チロは喰谷山で死んだ人の思いが融け合って生まれた妖怪。実体は無いが変身能力が高く、月光を浴びることで生き長らえている。
喰谷山を出ようと思いつき、何となく南を目指し滑に到着。月命日に酒を供えに来たガーと合い、話すうちに山守に興味を抱いた。
テイから溢れ出る闇を摘まみ食いした事があるので、間違い無い。
「そうか。で、その。」
「何ともアリマセン。」
チロは妖怪だが、闇に対して強い耐性を有する。
初めてテイの闇を口にした時、食あたりで腹を下すも月光を浴びて回復。毎夜浄化されるので、チョットやソットじゃビクともシナイ。
因みに人を怖がらせないよう仔犬の姿をしているが、四つ足で歩くのは苦手。
ソレっぽく動かしているが猫型ロボットと同じで、ほんの少し地面から浮いている。
「あの闇狸、祝の力を持つ人に憑く気でしょう。」
「だろうな。が、アレが山郷に入る事は無い。」
何だよ、何だよ何だよ何だよ! いっぱいイイのが居るのに、ちっとも近づけない。遠くからじゃ口に飛び込めないじゃナイか。
あぁっ、イライラする。
狩り人や樵、釣り人が犬を連れてるのは分かる。森に入る人に犬、付けるか? チラッと見たダケで熊が慌てて逃げ出すんだぜ。
幾ら何でも強過ぎるだろう、アレ。
「どう見ても仔犬なのに。ハッ、犲か。」
いや、だとしてもアレは・・・・・・。
「チロって呼ばれて、嬉しそうに尾を振ってた。」
どう見ても犬だ。
「『イイコだね』って撫でられ、尾を振っていた。ブンブン振っていた。」
どう考えても犬だ。
「なのに、引っ掛かるんだよなぁ。グヘッ。」
考え事をしながら歩いていたら、ボンと弾かれた。
恐ろしく清らで、強い守りの力を感じる。この奥には清めの力を持つ人、守りの力を持つ人、心の声が聞こえる人も居るだろう。
こんなモノ、ココに無かった。
欲しい! 欲しい欲しい欲しい。なのに奪えない。この狸、犬に吠えられる度に倒れる。気を失う。
狸ってのは驚くとドクンとして、動けなくなる生き物なのか?