12-12 姿を見せなくても
霧雲山系で一番大きいのは山守、その次に大きいのは喰谷山。三番目に大きいのが狩山。
山守は特殊、いや特別。
譬えるなら社を構える神は都道府県知事、御坐す山は法令指定都市。首相は山守神、官房長官は祝辺の守。かな?
因みに喰谷山は立入禁止区域ゆえ、入山するのは自殺志望者のみ。中心に在る喰隠から常に呻き声が聞こえるからか、人里も村も無い。
当然、社も無い。
狩山には多くの里や村があり、頂をグルッと囲むように在るのが狩山九社。
九社に御坐すは狩りの神、使わしめは犲の隠。離れには社の司など、神に仕える人が居る。けれど他の社は狩山社を含め、通いである。
緊急速報は山在神の使わしめ彗と、山郷神の使わしめ迅の遠吠えで伝達するよう依頼。
狩山九社は遠吠えを聞いた他社からの問い合わせがあれば、その都度対応する事になっている。
狩山社から直接アレコレ為さらないのは、使わしめ明寄が田龜の妖怪だから。
大甕湖で暮らす田龜の隠たちが川北の民の行いに怒り狂い、闇を巻き込みながら融合。妖怪になったのだが・・・・・・同時に巨大化。
日本産『水生昆虫』中の最大種だよ、迫力満点だよ。
体は褐色、扁平。頭部は小さく複眼は突出。前胸は幅広く前方に強く狭まり、後方に横溝アリ。で、前肢は捕獲肢。脛節の先に一本、鋭い爪を持ってマス。
体長は45~65mm。なのに小魚や蛙を捕まえるんだよ。それが巨大化したんだよ。・・・・・・コワイ。
「ほら、考えを変えてみよう。」
ガタガタ震える使わしめに、優しく御声掛け。
「どのように、変えるのですか。」
うるうるグスン。
「狩山社からね、田龜の」
「いぃやぁぁ。」
姿を見せなくても、思い出したダケで気絶。
「おやおや。」
バタンと倒れた使わしめを優しく撫で為さり、静かに社の外へ。
「山守の呪い祝か。」
出雲で幾度も耳にしましたよ。山守に御坐す神神が御力を揮われたのに、祓い清める事が出来なんだトカ。
「山郷から戻れば良いが。」
もし山の奥に進めば、里人に出くわす。人の姿をしていれば大きいし、見張られていれば身構える。
「選りに選って、狸に移るとは。」
気の弱い生き物だ。穴を掘るのも潜むのも上手く、木登りまで出来る。
「フゥ。」
この社に誰か居れば『危ない』と、『気を付けよ』と伝えられるのに。
「罠を張ろう。」
遠吠えにより狩山で今、何か起こっているのか知らされたのだ。同じ事を思いつかれた神神が、きっとアチコチに闇祓いの糸を御張り遊ばす。
「フッフッフ。」
腕が鳴る。
狩山神は山神、狩山九柱は狩りの神。他は大木や大岩、滝などの三霊代。森に、山に禍を齎す闇など要らぬ。
「ブルル。」
「珍しいね、明寄。寒いのかい。」
「いいえ。何だか、その。ゾワワと致しまして。」
「・・・・・・テイの闇に乗っ取られた狸、長いな。闇狸が諦めて、この山から出てくれれば良いが。」
狩山神の御言葉にウンウン頷く明寄。その隣で『それはドウだろう』と思いながら、団が小さく息を吐いた。