12-10 闇狸
また山守か。
山守は祝辺から食べ物を分け与えられ、飢えずに暮らしていると聞く。なのにナゼ求める。
弱い人を追いつめ、その命を奪い、大喜びして舞い踊るのだ。
祝辺も何を考えて。いや、止める気が無いのだろう。山守の民が揃って山越に移り住めば、誰も居なくなった地を丸ごと祓える。
山守山に蠢く闇は全て、山守村に噴き出す。山守社は山守に在るのだから、山守神が御力を揮い為されば清らになる。
なのに為さらないのは、山守の民が動こうとシナイから。社の司がコンコンと諭しても、人の守が言の葉を尽くしても響かないから。
「闇に体を乗っ取られた狸、長いな。闇狸は山郷へ向かったのか。」
山在神、チョッピリ気だるげ。
「はい。社に団子を供え、手を合わせた人には何もせず、追ったようです。山郷には守りに清め、全ての声が聞こえる人も居ります。村に入れず逃げ出すか、突っ込んで清められるでしょう。」
山在神の使わしめ、彗がハキハキと答える。
「逃げるだろうね。」
「はい。」
山郷神の使わしめ、迅は強い。
同じ隠、それも犲だ。判るよ。闇だろうが靄だろうが、山郷に禍を齎すモノは近づけない。
番を奪われ群れを離れ、熊に襲われそうな人の子を救う。
ソレがキッカケで山郷の子や女を見守りながら暮らし、祝に看取られ死に、求められて使わしめになった。
「彗。」
「はい。」
山郷から逃げた闇が狩山を出れば良いが、こちらに向かえば。いや、山在に入る前に祓おう。
この鼻は他よりシッカリ嗅ぎ分けられるし、尾を振れば禍を齎す全てを祓える。が、私一隠では難しかろう。
山在に祝の力を持つ人は居ないが、見える目を持つ人が居る。社の司カヌ、継ぐ子ミチ。二人居るが、ミチは八つ。
・・・・・・八つの子を駆り出すのはなぁ。
「巫を閉じ込めよう。」
「えっ?」
「明日を捕らえ、離れに閉じ込めよう。」
あぁ、聞き間違いではナカッタ。
「見える目も聞く耳も持たず、ハッキリ言って鈍い。」
その通りですか、ソコまで仰いますか。
「もし明日が闇に魅せられたり取り込まれれば、きっと山在は滅ぶ。」
巫は神に仕え祭祀や神楽、神降ろしや神懸りを行う。女は巫、男は覡でナゼか女が多い。
神降ろしは託宣を受けるため、神霊を身に乗り移らせる事。神懸りは神霊が身に乗り移る事。巫覡が神懸りになって霊魂を呼び寄せ、その意思を伝え告げる事を『口寄せ』と言う。
神霊を寄せるのを神口、生霊を寄せるのを生口、死霊を寄せるのを死口。
明日が唯一得意とするのが『口寄せ』で、困った事に他はカラキシ駄目。
「明日の口に飛び込めば、融け合うでしょう。」
彗が伏せたまま、前足で頭を抱えた。
「神はドウコウ、死人がドウコウ言っている。と言って皆を惑わせ、闇を引き出すのだろうな。」
山在神がガクンと、項垂れ為さる。
問答無用で明日を拘束し、幽閉すれば良いのに?
ソレが出来れば苦労しません。理由は簡単。歌って踊れる、山在のトップアイドルだから。