12-9 嫌われているワケでは無い
人に食わせる作戦を練る分ティ狸ィ、山中で第一里人発見。ヒャッホィと大喜び。勇む心を抑えながら後をつけ、冷水泉に出る。
「狩山さま。どうぞ、お召し上がりください。」
石積みの社に団子を供え、手を合わせて一礼。
近くに離れも里も村も無い。
ドコからドウ見ても祝の力を持つ人なんて、一人も居ない見当たらないゾ。社の奥から恐ろしい何かが、こちらをジッと見つめている。
この感じ、間違うモンか。魚の敵! 田龜だ。
子魚だった時、捕まりそうになって逃げた。逃げて逃げて逃げ捲ったよ。この泉はヤツの、待てよ。ナンデ湖で狩ってんだ。ココにもイロイロいるだろう。
「ウゥゥ、ブルル。」
神に祈りを捧げてるアイツ、年寄りだ。あんなの奪っても先は無い。もっと若いの、子が良いな。
「オッ、歩き出した。」
チラッと団子を見て涎が出たが、グッと堪えてトコトコついて行く。
狩山神の使わしめ、明寄は山裾の地にある大甕湖出身。田龜の妖怪である。
川北の生き物に嫌気が差し、渡り鳥に掴まって移住する事を決意。
強大な捕獲肢である前肢を広げ、雁に飛びつき、ブサブサ管を突き刺して脅迫。ではなく交渉し、気合と根性で望月湖に到着。
他の昆虫を捕らえては体液を吸い、蛙や小魚を捕食。
腹を満たしてから冷水川を上がり、源の泉で石積みの社を発見。『これ幸い』と狩山神に直訴し、使わしめとして就職。
食欲旺盛ゆえ冷水泉での食事を禁じられ、仕方なく望月湖で外食する。
明かりに吸い寄せられるように近づくので『明寄』と名付けられた。
「あの闇。」
「覚えが有るのかい、明寄。」
「はい。狩山神、この事。」
「山郷神、山在神に御伝えしよう。」
「はい。団、こちらへ。」
烏の隠、団は狩山の社憑き。
山越烏に執拗に追い回され、突き殺される前に供物の団子を与えられ、満足して死亡。隠となって直ぐ、社憑きに志願。
山守と山越を酷く嫌っている。
狩山神の勧めで参加した『隠烏の会』で、平良の烏と意気投合。友好関係を築く。サラッとだが祝辺の事が聞けるので冷静に判断し、隠の守を中の上と評価。
ワリとシビア。
隠や妖怪は明寄を見ると瞬きが増えるので、団一羽に任せる事が多い。
嫌われているワケでは無い。明寄を乗せて飛び回る事で、狩山の隠や妖怪に危機が迫っていると伝わる。
これ、利点だよ。
「急ぎ山郷社と山在社へ飛び、言伝を。」
「ハッ。」
狩山神は山神で在らせられるが山郷神、山在神は狩りの神で在らせられる。二柱とも犲の隠を使わしめと為さり、村の生き物を御守り遊ばす。
山在に祝の力を持つ者は居ないが、社の司には見えない物を見る力が有る。村に近づけば使わしめ、彗が吠えて知らせるだろう。
山郷には幾人も居る。社の司には守り、禰宜には清め。祝にはあらゆる生物の考え、声が聞こえる。
モチロン隠や妖怪も含まれ、会話も可能。
「平良から聞いた山守の呪い祝、テイの闇かもな。」
言伝を預かり飛び立つ前、団がポツリと呟いた。