12-6 昔は清楚、今は粋
うぅん、何か良い考えは無いか。何か、何か無いか何か。考えろ、考えるんだ分ティ。ぱくぱくゴックン。
「そうだ!」
小魚を丸ごと美味しく食べていたら、良い考えがピコンと閃いた。エイコサペンタエン酸やコサヘキサエン酸の効果か。
「骨も強くなった気がするし、イケル。」
カルシウムは偉大だ。
「雷に打たれよう。」
大丈夫か?
「・・・・・・うん、難しいぞ。」
落雷、即ち雷雲と地上物との間の放電など珍しくない。地上の高い突起や電気伝導度の高い物のトコロに起こり易い。
山火事の原因は吸い殻や焚火などの不始末、落雷や自然の乾燥ナドから起こる火災。
霧雲山は水が多く、カンカン日照りが続いても摩擦で火が出る事は無い。高温多湿で不快指数が上がるケドね。
タバコが日本に渡来したのは十六世紀の九州。焚火の不始末は、どうだろう。
狩りの最中に煮炊きするとは思えないし、野営するなら開けた場所を選ぶハズ。火が消えれば獣に襲われるから、朝まで代わり合って見張る。
残る可能性は落雷のみ。
「大木に落ちてビビビと、水を伝って川へ。それがココまで流れてビリビリ。」
ホウホウ。
「その時、水面に顔を出していれば?」
いれば?
「ビリビリビリッで、プッカァン。」
雷が落ちて直ぐ湖面に顔を出し、感電させる方法を思いついた分ティ。大興奮!
「ヨォシ雷、いつ落ちる?」
目を輝かせ、湖面を向いて問う分ティ。
山に落ち、川伝いに望月湖へ。となると狩山か呼人山。
狩山は霧雲山系で三番目に大きな山だが、山のアチコチに泉がある。呼人山は窪地が多く、泥濘んでいる。けれど沢溜に集まれば、急川から伝わるだろう。
問題は、いつ落雷するか。
「まだカナまだカナぁ。」
わくわく。
「雷さん、御出でなさい。」
サラッと命令形。
「分ティ、待ちきれない。」
可愛く言ってみました。
「今日も魚、いっぱい食べたヨ。」
それ、善行?
湖中で光か何かがプルンと動く度、希望に胸を膨らませて浮上。落雷の気配ナシ。
待てど暮らせどビリビリしない、そんな日が続きましたがカルシウム効果か? 癇癪を起こす事なく時流れ・・・・・・。
「ギョォォォ。」
限界突破。
「ドォナッテンノォォ。」
水中グルグル、高速移動。
「トゥッ。」
跳ね上がり、華麗に潜水。
計画を実行できずイライラ、イライラ。ジッとしてイラレナイ。鱒だけど迫力満点! 止まったら死んじゃう鮫のよう。
望月湖の鱒は回遊しない陸封型。
小魚時代は体側に黒色斑紋の並ぶ清楚な姿をしていたが、今じゃ見る影も。いえいえ。体の背面は暗青色で小さい黒点が散在、下方は銀白色。
粋な姿よ。