12-5 なぜ何も
壺の底で干乾び、詛い言を吐くテイ。その声は望月湖に潜む分ティにも、流離山に潜むティ小にも届かない。
届くのは山越に潜むヴァンだけ。
狸寝入りを決め込む怪獣には、弱体化したテイの呪いナド、『あぁした天気になぁれ』と同水準。
幾ら重ねても暴風雨の中、照る照る坊主軍団を軒先に配備するようなモノ。
「ナゼだ、なぜ何も言わん。」
体力と気力を養うため、特定機能停止中。
「山守の祝に取り憑き、巫や覡を取り止めさせた。力を残して地に潜ったのは、大きな願いを成し遂げるには足りぬ力を得るため。違うか!」
消滅するダケの妖力が足りず、地中で休止中。
「その願い、叶えよう。」
へぇ、どうやって。
「今すぐ祝社を吹き飛ばし、奪い返すのだ。」
何を?
「祝辺の守など敵では無い。頸を一捻りし、殺してしまえ。」
人の守は殺せても死ねば隠の守になるし、隠の守は隠だよ隠。コイル撥条のように捻じっても、ビクともシマセン。
そんなに伸びないケドね。
「どうした、コワイのか。」
いいえ、ちっとも。
「祝辺の守など、社が無ければ何も出来ぬ。」
確かに神じゃナイけど慕われてるし、崇められてマス。
社は器、壊れてもセッセと建て直すダケ。祝辺の端、鎮森の中に在るから困らないヨ。だって隠だモン。
人の守と継ぐ子は、そうだなぁ。暫くの間、平良分社に預けようか。
祝社の分社だし、社の司は居ないケド禰宜と祝は居る。
禰宜は分社を守る一族の長で、祖先は人の守の倅だったトカ何とか。祝は見えない物を見る目を持って生まれる。他に特別な力は無いケド、しっかり者だよ。
「喧しい。」
ムニャムニャ。
「ねぇヴァン。アレ、どうするの?」
「どうするって・・・・・・ウロは? どう思う。」
「そうねぇ。山守の祝に選ばれそうな人が祝になる前、何か術を考えたんでしょう。それを行いテイを捕らえ、いいえ。押さえつけて託した。」
「ホウ。」
「祝辺とは違う何か。そう、使わしめが動いたのよ。」
大正解!
「霧雲山に潜む闇、ザッと探ったが北西に二つ。一つは湖だろう、バラバラになったのを融け合わせた。もう一つは山、崖か岩の洞かな。」
吸血 蝙蝠ヴァン。
器を求めていた時、巫の隠と同化し雷獣を急襲。瀕死の雷獣を取り込む事で実体化。己をテイごと消滅できる、強者の出現を待ち望んでいる。
巫ウロ。
雨乞いに失敗したが死後、覡だった婚約者が生贄として殺されるのを見て闇堕ち。巫覡を廃止させようにも手段が無く、器を求めていたヴァンと同化。
目的を達成するも消滅できず、ヴァンと共に強者の出現を待ち望んでいる。
「ずっと前から気になっていたの。」
「何かな。」
「ヴァンの妖力は妖怪からも奪えるのに、どうして奪いに行かないの?」
「私が大陸妖怪だからさ。やまと妖怪と大陸妖怪じゃ、血も気も違う。だから奪っても尻、コホン。体の外に出てしまうんだ。」
「確か神成山に猫又、だったかしら。」
「アレはイケナイ。」
流には可能な限り、近づかないほうが良い。『触らぬ神に祟り無し』だよ。