12-1 通じない
新章スタート!
山守の呪い祝、テイは己を切り取った。山守の崖上からポイポイ投げられた闇は、アチコチに散らばる。
川ポチャすれば流され、岩ペチャしても流され、風に吹かれても流されて集まり、自我を持つ。
捨てられた? いや違う。きっと引き離さなければイケナイ『何か』があったんだ。そうだ、そうに違い無い。
どんどん流れ着く闇を取り込み、待って待って待ちくたびれて気付く。あれ? 流れてコナイ。最後に取り込んだの、いつだっけ。このままじゃマズイよね。
暗風編、はじまります。
今でもハッキリと覚えている。あれは山守の大崖、忙川を望む地。己を守るため、万が一に備えようと考えた。
ブチッと腹から切り離された私は思い切り、そう! 思い切り投げ落されてしまう。
苦しかった。
激しい流れに呑み込まれ、浮かび上がる事も出来ず・・・・・・思ったよ。テイは必ず、また己から切り離す。それを谷底へ投げ、いつか切り離した闇を集める。
それは何かに敗れ、力を失った時。
だから奪って奪って奪い捲り、力を蓄えるんだと。
「ハァ。」
湖まで流されるとは思わなかったが、ジッとしていても集まるのだ。ソレはソレで良いではないか。そう思い直し、向きを変えようとして気付く。
思うように動けない事、湖の近くには里も村も無い事に。
「どうしたモノか。」
待った。テイの闇が流れ込むのを、ずっと。待って待って待ち続け、取り込めるだけ取り込んだ。
望の夜は身を守るため底に沈み、清めの力を秘めた月の光から逃げる。日が昇り切るのを待って浮き上がり、小さな闇を取り込む。その繰り返し。
「滅んではイナイが、それだけ。」
『聞こえているだろう』だの『何とか言え』だの『主の呼び掛けに応えろ』と言っていたが、静かになった。
切り離した闇を獣か何かに植え付け、従わせようとしたのだろう。
「テイは今でも。」
闇には耳も口も、考える頭も無い。そう思ったから、あの崖から落した。
どこかに流れ着き、纏まって固まるとでも思ったか? あぁ、そうだよ。纏まったよ。死に物狂いで移り動いて、やっと。
フワン、ポワン、コロン。
もしテイが捕らえられ、切り離せなくナッタなら。もしテイが閉じ込められ、外に出られなくナッタなら。
もしテイの闇を植え付けられた何かが、己を強く持っていたら、どうだ。
「クックック。」
湖の外がドウなっているのか、闇の塊にはサッパリ分からない。けれどココから出られたら、通り掛かった獣を取り込む。
「ん、待てよ。」
集めに集めて、この姿になった。重くなったのか動けない。湖の底をゴロゴロ、いや、水の中を漂っている。
「このまま新たな闇を取り込めなければ。」
どうなる。
「ふや、ける。」
水に浸っているのだ。柔らかく膨れ、元に。
「それはナイ。」
そうだ。取り込んだ闇は融け、一つになっている。もし、いや考えるな。落ち着いて今、出来る事を。
「・・・・・・考えを纏めよう。」
この姿では、どうしたって水から出られない。水の中を思うように移り動くには、小さくても良い。骨と肉が要る。
ポワン、フワン、コロン。
霧雲山には水が多い。この湖の他にも、きっと。となるとテイから切り離された闇がアチコチに集まり、融け合って待っているのか。
「クックック。」
迎えを待っている。そうだ、そうに違い無い。なら今すぐ、動き出さねば。
「とはいえ、この姿。」
思い違いでは無い、ふやけた。水を吸ってブクブクだ。
重い、重いぞ。水の中で跳ねて、いや転がっている。このままでは魚の体を奪えず、湖の底に沈んでしまう。
「何とかせねば!」
来い、魚。寄って来い。柔らかいぞ、フニャフニャだぞ。オイ、聞こえナイのか。おぉい、オイ。