11-132 突然の出来事
野呂に来て、そんなに経ってイナイ。でもタエは野呂に居るより他の地に。
「そう、だよね。トモみたいに近づくの、増えてくるよね。このまま野呂に居たら、きっと。」
「タラ、この事は。」
「父さんと母さんには言わない。でも、タエには伝える。オレ、タエと生きたいんだ。幸せにしたい、笑ってほしい、抱きしめたい。」
己の目を見てハッキリ言い切るタラに、タタは強く惹かれた。『惚れた腫れた』ではなく『カッコイイ』と思ったのだ。
山守の呪い祝、テイは祝辺の獄で小さくなっている。壺に入れられ干乾びて、詛い言を吐きながら。
「そうか。でもな、タラ。思いが通じるまで手を出すな。抱きしめたいなら『ギュッとして良いかい』って聞いて、『良いわよ』と言われるまで待て。」
「うん、待つよ。父さんに同じコト言われたし、タエに嫌われたくナイもん。」
キリッ。
「ヨシ、良く言った。思いを伝えろ。」
「ハイッ。」
クルッとタタに背を向け、社の北へ向かうタラ。頭の中はタエへの思いを『どう伝えるか』で一杯一杯。
樫の幹に触れ、にこやかに微笑むタエを見てドキン。他の誰かに見られたら惚れられてしまう! と大慌て。
脳内で警戒警報が発令され、瞬時に狩り人の顔になった。スッと目を伏せ耳を澄ませ、素早く周囲を見渡す。
安全性が高いと判断し、ユックリと歩を進める。
「やぁ、タエ。」
只今、鎮野と通信中。
紅、満、舞が力を合わせて守っているので、タエにタラの声は届かない。
「・・・・・・うん、解った。待つね。」
明るい声を出し、ニコリ。
タラは待つ。日が暮れるまで待つ。
只管にタエの幸福を願うタラは『いつまで待たせるんだ』とか、『もう良いだろう』とか『サッサと終わらせろ』など言わない。
考えもシナイ。
まぁ、そんな事が? 山守の呪い祝って、とっても恐ろしい力を持っていたのね。己を切り取り、切り立った崖の上からポイポイ投げるなんて考えられない。
木に引っ掛かったり風に流されたり、崖や岩に打ち当たって砕けたりシナイのかしら。
霧雲山は水が多いから、深い谷底に川が流れているんでしょう?
ドボンと落ちたらドンドン流され、ブクブク溺れちゃう。どんなに泳ぎが上手くても、きっと耐えられない。
水が多いと流れも早くて激しくて、とっても危ないって教わったもの。
エッ、そう。喰谷山に潜んでいた闇も、梅の湖に潜んでいた闇も消えて無くなったのね。
喰谷山のは狐の妖怪、梅の湖のは川亀の隠に? いえ、何でもナイわ。でもね、他にも潜んでいる。そんな気がするのよ。
大蛇様も仰ったわ。『山守と望月湖には近づくな。テイが潜んで居る』って。
山守に潜んでいたテイは祝辺の獄に入れられたケド、望月湖に潜んでいるテイは今も。そうよね。
「ふぅ。」
「やあ、タエ。」
「タラ。もしかして、ずっと?」
「少し前からだよ。」
ニコッ。
「あのね、話があるんだ。少し良いかな。」
「えぇ、何かしら。」
「オレと共に生きてください。」