11-127 火の用心
初心な娘にズッコケ、心の中で声援を送った二妖一隠。その思いは一つ。
「大泉、ザッと調べたが強いな。」
影を踏むことで対象の精神と行動を支配する妖犬、クルがニッコリ微笑んだ。
「鎮森もナカナカのモノ。」
狐火と幻術を得意とする妖狐、フサが九尾を振った。
「大泉の亀頭、三も褒めていた。『あの森には心がある』と。」
影縫いと影落としを得意とする川亀の隠、シナがウンウンと頷いた。
大泉の社憑き、亀頭の三は草亀・石亀・鼈の隠が集まって妖怪化した亀。
甲は茶・黒・灰の三つ巴で性質は温厚。尖った口吻と長い頸は鼈、頭頸部・四肢・尾部を甲内に引き入れ体を保護するのは石亀、雑食性なのは草亀の特質が出現。
因みにシナは飯野の前、亀頭。フサは茅野の前、狐頭。クルは添野の前、犬頭である。神の仰せにより社憑きを辞するも、その実力は折り紙付き。
「森の木が枝を動かすのか?」
クルが首を傾げる。
「枝や幹、根も動かせる。」
フサが涼しい顔で言い切った。
「噂には聞いていたが、そこマデとは。」
シナが見開く。
鎮森は山守と祝辺を囲む森で平良、大泉、鎮野、山越の一部と接している。
つまり南を支えるのは大泉、平良、鎮野の三山。北を支えるのは山越のみ。坦山と滑山は崩れ霧山に嗚山、固山との間には深い谷が出来た。
霧雲山系で一番高い山守は、二番目に大きな喰谷山と違ってスリム。
山崩れ前は霧山や嗚山、坦山、滑山、固山とも接していたので安定していたが、今は東西スゥスゥ状態。なのに頼れない。
「山守に動きはナイが、山守社は。」
「フサよ、狐の会で何か聞いたのか。」
「なぁシナ。滑の地、山守の大崖をドウ思う。」
御隠れ遊ばした滑神と固山神は飲み友、使わしめ同士も仲が良かった。
滑神と運命を共にしたコーのため、ガーは命日の夜、土に埋もれた滑社に酒を供えている。
坦神も御隠れ遊ばすも使わしめアラは生き残り、『人の世に残って山守から坦の地を守り続ける』と誓う。
犲のアラは強い妖怪、闇堕ちすれば終わり。心がポキンと折れぬよう、固山神は生き残ったアラの後見となった。
因みに坦神は愛鳥家で、霧山神と野鳥を観察して御楽しみ遊ばした。
嗚山神は愛犲家で、探鳥中にチョッピリ嫉妬するアラを御撫で遊ばし、微笑まれた。今でもソッと見守って御出でだ。
「そうか。坦の地はアラさまが守り為さって御出でが、滑の地はガラ空き。となると、梅の湖もアヤシイ。」
テイの闇は岩川か滑川から望月湖に入り、湖底でウゴウゴしている。忙川に落ちたなら烈川、喰谷山を通って梅の湖に流れ込むだろう。
「アッ!」
シナの言葉を聞き、クルとフサが焦る。
「急ぎ調べよう。」
クルが言い、シナとフサが頷く。
タエの護衛はシナ、クル、フサの順で担っている。明日はクルの番なので喰谷山をフサ、梅の湖をシナが調べる事になった。
喰谷山の真中には人の世にある隠の刑場、喰隠が在る。九尾の妖狐でも骨が折れるが最大火力で焼き尽く、のではナク誠心誠意、事に当たるツモリだ。
火の用心、狐火コンコン火事の元。モフモフ♪