11-124 何も見てないよ
霧雲山ってコロコロ変わって、とっても先が読み難い。トモだっけ? 長の倅。こんなの見なかった。
「ただいま、タエ。」
トモが土に埋まってた。きっとアレ、タエを守ってる犬たちが力を揮ったんだ。
「おかえり、タラ。」
いつもより戻るのが早いケド、何か有ったのかな。
「カノシシを狩ってたら兎が出てきてね、ビックリしたのか木に頭をゴン。ほら、この通り。」
タエをヒロに託して良かった。年が近いがタラは男の子、社でって話も有ったんだよ。
「カァ、カァカァ。」 カエルヨ、ツイトイデ。
ビクッ。
「アレは山烏。平良の烏でも山越烏でもナイよ。」
「そう、なの?」
「うん。」
タエ、きっと怖いんだ。祝辺や山守から悪いのが来て、連れてかれると思ってる。
野呂は鷲の目を遣る代わりに、祝辺に人を送らないんだ。もし山守のが来ても追っ払うよ。そうだ、夕餉を作る時に話そう。
少しは心が軽くなるカナ。
「おやタラ、早いね。」
「はい、ミオさま。大きなカノシシを狩りました。アッチで捌いてますよ。」
「あら嬉しい。私、好きなのよカノシシ肉。初めは焼き立てをバクッ。残りを干し肉にして、うふふ。」
社の司は肉食系?
「タエはカノシシと兎、どっちが好き?」
「シシ肉も好きだけど、兎かな。」
「オレもだよ。」
うんうん、仲良しだね。なんだか眩しい。ってエッ、ミオさま。何を仕留めたの・・・・・・。
♪見たよ 忘れます 何にも見てないよ、カァカァ♪
「クッ、気付かれたか。良い衣を着ていた娘、野呂の子ではナイ。野呂の社の司はオソロシイからね、手は出さんよ。クックック。」
人差し指だけ伸ばし、タンタンタンと拍子を刻むコチラの男。十六代祝辺の守、セノ。暫くの間、獣の目と耳を通して探る力を持つ元、祝人頭です。
「セノよ、悪い顔で何をした。」
「こんにちは、とつ守。」
ニッコォ。
「ドコに飛ばし、何を見た。」
「クックック。木の騒めきに私、ワクワクしてしまいます。」
ジィィッ。
「野呂に鷲を飛ばし、外から来た娘を見つけました。八が騒いでいた子ではアリマセンね。強い『何か』を感じましたが狐憑きですよ、あの子。丸焼きになりたくナイので私、言われても何も致しません。」
狐火の前に氷の玉が飛んできたので、目も耳も焼かれずに済みました。ホッ。
「野呂と野比には飛ばすな。」
「ハイ、明里に飛ばします。なぁんちゃって。」
「セノ、休みなさい。痛痛しくて見てイラレナイ。」
あの子、どうやって霧雲山に入ったのだろう。
山守の呪い祝を捕らえる前? 狸も狐もコワイけど、あの狐は迷わないよ。狐火一つで山守を崩せるね。ブルル。
穏やかで和やかな暮らしのため、祝辺と山守を守ります。お休みなさい。スピィィ。
「タタ、答えなさい。この鷲、ミオが落したのか。」
「ワタシ、ナニモミテナイヨ。」
全力で惚ける倅に父、脱力。