11-123 村の問題児
野呂って人が多いな。茅野も多かったケド、こんなにザワザワしてナカッタ。いっぱい死んじゃったから。
「ヨォ、何してんだ。コッチ来いよ。」
どうしてジロジロ見るの。なんだかコワイ、気持ち悪い。コッチに来ないで。来ないでったら!
「イイコトしようぜぇっ。」
シナに影を噛まれ、ピクリとも動けない。
「何した、止めろ。」
足元の影が大きくなって、脛まで填まった。
「バケモノ。」
ズブンと腰まで落ち込み、顔面蒼白。
「助けっ」
首まで填まり、ガタガタ震える。
外から来た物持ち娘。
パッと見でも判る良い衣、ツヤツヤの髪。歩き易そうな沓は木じゃなくて、皮のヤツ。他にもイロイロ良い品を持っている。モノに出来ればアレ全て、オレのモノ。
欲しい。欲しい、欲しい、欲しい。
社なら手を出せないが、タラんトコに引き取られたんだ。
オウもヒロも狩り人、タラは小っちゃい時から付いて回って狩り人になった。村に居るより森に居るコトが多い。だから、その気になれば奪える。
そう思った。
「たす、けて。」
諦めます。近づきません、手を引きます。何もしません。だから、だから助けて。
「誰かぁ、誰か来てぇぇ。」
逃げんな助けろ。バケモノのクセにイイ気になるな。
良山だっけ? 追い出されたんだろう。それで野呂に来たんだ。そうだ、そうに違い無い。
「トモ。タエに何をした、何をしようとした。」
「は、祝。」
マズイ、マズイぞ。『襲って組み敷いて孕ませようとした』なんて知られたらオレ、父さんに殺される。
「ハァァ。申し訳ありません、タエさん。オウたちが戻るまで、社の離れでお待ちください。お送りします。」
「はい。」
差し出された手を取り、野呂社の方へ。
「チョッ、ちょっと待て。助けろよ。」
「良く聞けトモ。今から死ぬまでタエさまに近づく事、許さん。破れば『嘆き溪』に蹴落とす。」
タタは心が読めて、声や目の動きなどから考え思う事を読む事も出来る。トモがタエを狙っている事に気付き、コッソリ見張っていた。
タエに憑いている隠や妖怪の姿は見えないが、ドコに居るのかは分かる。タタが動く前に仕置が始まったので、騒ぐまで放っておく事に。
「嫌だ、嫌だイヤだ嫌だ。」
「トモ、黙れ!」
野呂の村長登場。
「タタさま、タエさま。倅を溪山に放り込み、小屋と狩り人の手伝いをさせます。それで御許しください。」
「そんなの嫌だ、死んじゃうよ。父さん、助けて。」
「足だけでナク肩まで填まるとは、トモよ。タエさまに何をした。何をしようとした。良い事では無かろう。」
ギクッ。
「タエさま、申し訳ありません。コレの事はお気になさらず、社へ。」
「はい。」
タタに手を引かれ、タエが立ち去った。
タエの後ろ姿を見て『いい尻してるな』とイカガワシイ事を考えたトモ。グフフと笑った瞬間、口まで填まり、大パニック。
シナだからコレで済んだが、フサだったらオソロシイ事になる。
『狐火で焼きながら幻術を使い、死ぬまで幻覚に悩まされ続ける』とか『狐火で玉と根を焼き切って、小水を出せなくする』とかネ。