11-122 恐れず進め
どうしよう、見つかっちゃう。
谷河の子が小出の使い蛍に、妖怪に守られて。それで霧雲山に入ってモクモクの山を通って、洞を抜けて舟に乗って。
「マル、マルコ。みんな。」
蹲るタエの背をポムポムと、柔らかい何かが叩く。
「ふふっ。くすぐったい。」
大実社を通って隠の世に入ってから、鎮野に出るまでは見えていたのに見えなくなった。
でも川亀のシナさま、狐のフサさま、犬のクルさまが側に居てくださる。私は一人じゃない。
「ありがとうございます。」
シッカリしなきゃ。
私が野呂に居る事、まだ気付かれてナイわ。
蛍の夜光さまは谷河社を通って、小出社に戻られた。
闇の力で心を操る祝辺の守は、山に囲まれた仕置場で叫んでる。草や木の声が聞こえる祝辺の守は、私をドウコウする気はナイみたい。
「ん、動けない。」
クルに影を踏まれ、体が思うように動かなくなった。
「この感じ、犬かな。」
ホウ、判るのか。
「オレ、タラです。狩り人です。タエが泣いてたので、声を掛けようと思いました。」
そうか。
「野呂は忍びを祝辺に送り込んでるケド、見張ってるダケだよって伝えたいです。」
フム。
「オレ、タエが好きです。」
ナヌッ。
「初めて会った時、胸がビビッとしました。」
・・・・・・真そう思うて居る。が、チと早くはナイか?
「父さんも爺さんも兄さんも、ビビッとした子と契ったんです。『惚れたら負け』らしいですよ。母さんも婆さんも姉さんたちも、何て言うか強いです。」
ポカァン。
「オレ、強い狩り人になってタエを守りたい。側に居たい、笑わせたい。だから犬さん狐さん、川亀さんカナ。オレの事、認めてください。」
えっと、どうする?
姿を隠しているから、人には見えない。強い祝の力を生まれ持つタエでも。なのにタラは言い当てた。カンか、生まれ持ったモノか。
若くても狩り人だからな、犬と狐の違いは判るだろう。が、姿を見せぬシナを『川亀』と言い切った。草亀でも石亀でもナク、川亀と言い当てた。
「どう思う。」
優れた嗅覚を活かし、ハイテクセンサーでも検出できないアレコレを見つけちゃう犬の妖怪、添野のクルが問うた。
「ありゃ化けるぞ。」
変身能力は狸と互角でも、幻影術では他の追随を許さない狐の妖怪、茅野のフサが言い切る。
「惚れたヤツより、惚れられたヤツと契る方が幸せになれると聞く。」
水底の泥に隠れて狩りをしたり、鼻の穴だけ水面に出したり、イザとなったら超高速で走る亀界のエージェント。川亀の隠、飯野のシナが頸を伸ばす。
「・・・・・・祝人より、戦える狩り人か。」
良山で暮らし、早稲の生き残りを見て思った。モノを知っているダケでは守れない。戦う術、奪う術、騙す術も身に付けなければ守りながら戦えないと。
己には何が出来るのか、何が足りぬのかを知り、鍛え上げる。毒でも使いようによっては薬になる。
直ぐに分からなくても少しづつ少しづつ積み重ねれば、いつかきっと力になる。
タエはソレを学び、強くなった。胸を張って踏み出した。恐れず進め、我らが憑いている。