5-34 隠の世
なんだ? ほんの少し、体が浮いたような気がする。それに何だか、嫌だな。
「コウ、来てくれたのね。うれしい。」
「えっ、誰だ。離れろ、纏わりつくな。」
「私よ、わ・た・し。あなたのヒサよ。」
「仕置場に、いるはず。」
「出たの。」
「ここは、どこだ。ヒロさん、矢光の長は。」
「知らない。いいじゃない、仲良くしましょ。」
「隠の世。いや、妖怪の墓場か。」
「カンが良いな、コウ。諦めろ。もう、戻れない。」
「誰だ! いや、妖怪。オレは戻る。ツウが待っている。諦めない。」
「なっ、何よ。私がいるじゃない!」
「離せ、ヒサ。オレは一人でも帰る。ツウの元へ。」
「いっ、嫌ぁぁぁぁぁ。」
ヒサの叫びが、濃い翳りを歪めた。裂け目から伸びた、黒い何かが絡みつき、コウは倒れる。
「い、息が、で、きない。」
このままでは、死んでしまう。嫌だ。オレは、オレはツウと生きるんだ。
「・・・・・・ツウ。」
死にたくない。体が、重い。
「兄い、起きて。ツウが待ってる。兄い、兄い。」
・・・・・・ミツ。
「兄い、思い出して。」
ミツに言われたこと。・・・・・・言の葉が足りない。好きな子には、好きと言え。好きでもない子に、優しくするな。それから・・・・・・。
『考えるんじゃなくてね、感じるんだよ』
「そうか、ミツ。分かったよ。」
コウから光が溢れだし、体を覆った。ジワジワと温かくなり、悪いモノが押し出されてゆく。
ゆっくり息を吐き、吸い込む。すると、見えた。
「なっ、何だ。人の子、だよな!」
「確かに、人の子だ。」
「なら、なぜ光る。」
「知るか。」
乱雲山の、妖怪の墓場。葬られているのは、ソコソコ強い妖怪たち。中にはゴロゴロの逆鱗に触れ、放り込まれた破落戸も。そんな妖怪たちが怯え慄く。
「狐と狸の、妖怪?」
「なんだ、人の子。」
「雲井社へ戻りたい。道を、知っているか。」
「知っていても、教えない。」
「コ・ウ。私を、幸せにするために、来てくれたんでしょう?」
「ヒサ。オレが好きなのはツウだ。思い違いするな。そもそも、ヒサに優しくした覚えが無い。なぜ、オレに付き纏う。」
ヒサ、再び叫ぶ。
困ったな。・・・・・・そういえば、爺様。足を滑らせて水に落ちた時に、光に包まれて。それから、生きものの心が分かるようになったって。この光、オレから出てるよな。なら、オレも?