11-120 回旋
よつ守が伸ばすのは闇の糸、アタが伸ばすのは光の糸。強いのも良く伸びるのも闇の糸だが、掴みたくなるのは光の糸。
「ヤメデェ。」
喰谷山に居るのは死人だけ。
胸を掻き毟って悶えたり、のた打ち回って死んだ人。逃げようとして踠いたり、痛みで転げまわったり、のた打ったりして死んだ人。
「ダズゲデェ。」
山に囲まれて平たくて、暮らし易そうなトコロを見つけ、大喜びして引っ越した。
力を合わせて耕して、畑や田んぼでイロイロ作ろう。そう思ったのに、笑い合ったのに。
「モウジマゼン。」
病じゃなけりゃ毒か、呪いか。こんなに広くて気持ちが良いのに、どうしてバタバタ倒れるんだ。どうしてガタガタ震えるんだ。
堪えきれない痛みにのた打ち回る。鼻から口から血を流し、手を伸ばして息絶える。
「モドニモドジデェ。」
死にたくない、死にたくない、死にたくない。幸せに暮らしたい、死にたくない。こんな事になるなら、分かっていたら出なかったのに。
蓑虫のようにプランプランしながら鎮森を抜け、崩れて流れた坦山へドォンと降下。そのままズルズル引き摺られ、休む間もなく岩川へドボン。
口を閉じられず水ドバドバ。息をスゥハァ出来なくなって、目を白黒させる。
もう死んでるケド、死にかけました。
望月湖に入る前にグワッと浮上。そのまま打ん投げられ、滑り崖にズボッと減り込んだ。
乱暴に引っこ抜かれグヘッとなって、前後に振られて飛ばされた。ゆるやかな曲線を描きながら、パンパカパァンと派手に着地。
とっくの昔に死んでるケド、生きた心地がシナカッタ。
光の糸に巻かれたまま、喰谷に放り込まれた八は思う。『やっと止まった』『助かった』と。
尺取虫のように移動しながら、糸グルグルからの脱出を試みる。が、思うように動けない。
尺取り尺取りグルングルン。アッチにコロコロ、コッチにコロコロ。ころんコロンと転がるウチに、糸が解けてボッサボサ。
籤取りするかのように伸びた手が、八を包む光の糸に群がった。
ヨーヨーのように伸びて縮んで、伸びて縮んでスポォン。ベシャっと地面に叩きつけられ、川向うで手を振る両親を見つけた。
振り返そうと伸ばした手をガッと掴まれ、引っ張られる。
「ヤメデェェ。」
喰谷の縁から喰隠に投げ込まれ、飢えた獣に食い千切られる。
「ダズゲデェェ。」
手を捥がれ足を捥がれ、首を捥がれて血が噴き出した。腸を抜かれ心臓を潰され、想像を絶する痛みを味わう。
「モウジマゼンッ。」
隠は、もう死んでいる。蜥蜴の尾より早く再生するので、何度も何度も悲惨な苦痛を与えられる。
阿鼻地獄に落された亡者のように泣き叫ぶ。
「アァァァァァ。」
思うまま求めた。生まれ持った闇の力で不安を増幅させ、心を操り歪めつづけた。心や体が壊れても、直ぐに代わりを用意した。
罪悪感も背徳感も何も無い。
永遠を生きる隠にとって、人の一生は刹那。ドンと打ち上げられた花火のように、パッと散って終わり。
ドン、パッ。ドン、パッ。ドン、パッパッ。
「モウジワゲェ、アリマゼェン。」
己が罪を認め、悔い改める。けれど地獄の責め苦は続く。血の涙を流し、血の沼に沈み、八の精神が崩壊しても繰り返し。
残骸が朽ち果てるまで、ずっと。