11-117 こうなれば、もう
こうなれば、もう出向くしかナイ! 集谷社ではなく谷河社。村の中なら調べられる。
「ひとつ守、宜しいでしょうか。」
「おやキノ。怖い顔をして、どうしました。」
「谷河の狩り人が、強い力を持つ子を連れ帰りました。その子を祝社に迎え、継ぐ子として育てようと思います。御許し、いただけますか。」
「キノ、良く聞きなさい。救られた人をドコに託すか、決めるのは谷河の狩り人。託したのが釜戸山なら、裁きで救われる人。託したのが乱雲山なら、隠か祝の力が絡んでいる。日吉山や岩割山など、他の山なら新に踏み出せる人。」
「・・・・・・はい。」
「谷河に連れ戻ったなら、その人は。」
「山守とは違う山で、静かに暮らさせる。」
「そうです。」
冷気山を調べたが見つけられなかった。
集谷山に入ったのは確かだ、間違い無い。谷河、谷山、鷲巣、忍路か。村でなければ里か、隠れ里か。
集谷で調べられるのは谷河だけ。早くしなければ、急がなけば谷河から出される。
集谷長は谷河の長、集谷臣は忍路の長。連れ帰った子は忍路で調べられ、舟で谷河へ行く。
強い力を求めているのは山守だけでは無く、祝辺も求めている事に集谷臣は気付いている。受け入れ先をサッと決め、送り届けるだろう。
「ひとつ守。」
「諦めなさい。」
集谷山に入った子、救い出された子か?
谷河の人が覚えるのは狩り、山歩き、食べられる物と食べられない物。犬や鷲の扱い、人との付き合いなど、イロイロな事を身に付ける。
「けれど霧雲山を、御山を守るには」
「許しません。」
谷河で学べば谷山、谷山で学べば鷲巣、鷲巣で学べば忍路で学ぶ。御山の外に出て試し、確かめるとも聞く。
その子は御山の外で転ぶか足を滑らせ、歩けなくなった。歩けるが、歩くと傷みが出る。だから抱えて戻った。
そうは考えられぬのか、キノよ。
「・・・・・・ひとつ守。」
なぜ、なぜですか! あの子なら良い継ぐ子になりいます。人の守として、隠の守として尽くすでしょう。なのに、なのにナゼ止め為さる。
「急ぎ申し上げます。八がアタを引き摺り、社の奥に消えました。アタが『谷河』と言い残しましたので、谷河社へ向かったと思われます。」
ヨシッ!
「喜ぶな、キノ。」
「はい、ひとつ守。」
悪いと思ってナイね、笑ってるモン。ニッコニコだよ。
「ハァ。タカは確か、谷河の生まれでしたね。」
「はい。谷河で生まれ、谷山で育ちました。」
「悪いが急ぎ、谷河へ。アタと力を合わせ、八を連れ戻しておくれ。」
「はい。行って参ります。」
先見の力を生まれ持るタカは、人の子が社から離れた社憑きの川亀の隠、野狐と犬の妖怪に守られるように、霧雲山に入るのを見た。
見たが、顔は見えなかった。
タカの力が弱いのでは無い。強い守りの力を持つ誰かが、その子を祝辺の守から守ろうと隠している。だから知られる前に、気付かれる前に忘れた。
社憑きを放って守らせる子だ、手を出してはイケナイと。
「うわぁ。」
思わずポツリ。
「おや、タカ。久しぶり。」
谷河神の使わしめ、黄爪がニコリ。
黄爪は今でも一隠として、望まれて人の守になったタカの力になりたいと思っている。