11-116 あの山に入れば
霧雲山に強い力を持つ『誰か』が入った。平良を飛ばしたが『霧が濃くなり、何も見つけられなかった』と。
烏は烏でも平良だぞ、平良。どうする。
八の事は気に入らんが霧雲山を、霧雲山の統べる地を守るには要る。親から子へ受け継がれる力、世を隔てて受け継がれる力、強い力が多く要るのだ。
「フゥゥ、どうしたモノか。」
オカシイ。南の麓から西へ、少しづつ上がっている。このまま進めば冷気山に・・・・・・入る気なのか。
あの山に入れば、迷い込めば命が無いぞ。
「そうか、だからか。」
谷河の長は集谷長も兼ねている。
集谷臣でもある忍路の長は若いのを放ち、御山のアチコチを調べ回っているのだ。狙いは祝辺。
谷河の狩り人は祝辺の守に認められた救い人。それを支える鷲巣も、鳥を放ってイロイロと。
ハッ、集谷社には守りの力、闇の力を持つ祝も居るのだろう。隠の守を弾き、私の力も弾き、遠ざけるとは。
「アタ、頼みがある。」
気乗りシナイなぁ。谷河の狩り人なんて、アッチコッチに居ますよね。ソレを全て? キノさま、分かってナイ。
ヤツらが連れてる鷲、鷲巣生まれ。ヤツらが持ってる札、忍路も持ってる。谷河か忍路かナンテ見分けられまセン。
「キノさま。その狩り人、鳥連れですか。」
「あぁ、連れてる。」
「私が糸を伸ばしても、直ぐに切られるでしょう。それでも伸ばしますか。」
麓から北を目指さず、西に進んだ。少しづつ上がってきている。霧が濃くなった。コレどう考えても谷河社、集谷社も動いたってコトだよ。
霧を出したのは谷河の祝。集谷には守りに闇、先読の力を持つのも居る。
集谷山から谷河が無くならないと、祝辺の守でも手が出せないんだ。あの山には忍びでもナイのに強いのが多いし、何より知り過ぎている。
なのにコチラは何も、何にも分からない。
「アレが集谷、いや冷気山に入る前に捕らえなければ。捕らえられなければ逃げられる。」
谷河なら社を通して、連れ帰った子を調べられる。が、調べられるダケ。『寄越せ』『渡せ』と言っても断られるだろう。
集谷には、破れない膜を張るのが居るんだ。手も足も出ない。
「そうですね。」
いやいや、良く考えて。谷河の狩り人は昔、祝辺の守から『山裾の地から逃げ出した人たちを見つけ、助けるように』と命じられたんだよ。
連れ帰ったって事は釜戸山にも乱雲山にも託せない、どうしても守らなきゃイケナイ子だよね。きっと。
そんな子を攫う? じゃなくて捕らえようなんてさ、狂っているとしか思えない。
「イヤなのか。」
ハイ。
「頼む。」
イヤです、諦めて。
「この通り。」
・・・・・・コレ、断れないヤツだ。
冷気山には集谷川が流れ込む洞が在り、麓に繋がっている。噂だと思っていたが真だったのか。
霧に阻まれたとはいえ、祝の力を揮ったのだぞ。なのに追えなかった。見失った、逃してしまった!
アタの糸はブチブチ切られ、光の玉は木の上でポシャン。
そりゃ届かんよ。道は道でも、ヤツらが通ったのは獣道。鳥と犬を連れた男が二人、子を抱えて進むには辛かろうに。
「キノさま。」
「ありがとう、アタ。」