11-115 側に居るよ
うわぁ、無いわ。八ってキノを何だと思っているんだろう。他の守は違うのに、あの二隠は。いや違う、八がオカシイ狂っている。
「よく来たアタ。キノが見つけたモノ、捕らえよ。」
「イヤです。お断りします。」
十五代 祝辺の守、アタには光の糸を伸ばし、生き物を捕らえて縛る力を持つ。初めて八に会った時、その歪みと危うさに直ぐ気付き、逆さ吊りにして打ち捨てた。
互いに睨み合っているが、稀に声を掛けられる。
八は己の望みを叶えるためなら、どんな事でも迷わず行うバケモノだ。誰が何を思おうが御構い無し。
「オイ待て。」
待つワケが無い。
「キノ、アタ。」
二隠とも黙ったまま、立ち止まる事も振り返る事も無くスタスタ歩く。
「祝の力が弱まっているんだぞ! 何とも思わんのか。」
それがドウした。だから何だ。
「このままでは何れ、この地が戦場になる。」
八よ、どれだけ隠の守が祝辺に居るのか、知らぬのか。
山守に殺され、鎮森に打ち捨てられた骸の嘆き。思いを残したまま苦しむ魂の叫び。啜り泣く声、噎び泣く声。
「多くの血が流されるのだぞ。」
その前に動き、奪う。それが闇に強く、堕ちても戻れる我らの務め。
「オイ! 聞こえているのか、オイ。」
野呂社の北で樫の大木を見つけ、鎮野に居る紅たちと話せるようになった。
親から受け継ぐ力は強いので、山守や祝辺に狙われ易い。タエの他にも狙われている子が居ると聞き、目の前が真っ暗になる。
「タエは一人じゃない。だからね、家に帰ろう。もうソロソロ寒くなるよ。」
「タラ。」
タエには丸亀、犬、狐も憑いている。良村でイロイロ学んだし、祝の力に呑まれる事もない。それでも嬉しかった。
「さぁ、手を繋ごう。」
と言って、真っ赤になるタラ。
「はい。」
小出を出たら話せないので、声に出さなくても伝えられる術を叩き込まれた。
『タエが野呂に入った』と知らせを受け、五日。小出を出た一行は驚く。霧雲山が雷に打たれたように、ピカッと光ったから。
「ワフッ。」 ススモウ。
シバさん、アレは悪いのを消す力だよ。それにホラ、見て。御山を包む光の膜が、出た時より厚くなってる。
「ヨシ、チビ。行くぞ。」
シバがチビを撫でてから、ソウに声を掛けた。
「はい。」
谷河の子を抱えているので、飼い鷲カンをシバに預けた。シバは犬飼いだが鳥飼いだったので、鷲の扱いにも長けている。
「ん、カン。そうか。チビ、ソウを頼む。」
「ワン。」 マカセテ。
霧が濃くなるよ。シバさんから離れないように、見失わないように歩いてね。離れちゃっても見失っても、ちゃんと知らせるヨ。側に居るよ。
「どうした、休むか?」
「いえ、歩けます。」
兄から譲り受けたカンが、シバに何を伝えたのか。分からなかったが、スゥっと出た霧が濃くなって気付く。
谷河社の祝、ハヤが力を揮ったのだと。霧を操り、助けてくれているのだと。