11-112 何が何でも守るんだ
うぅん、気になるなぁ。
霧雲山のアチコチで、実りが悪い稲が見つかっている。山守の呪い祝の闇が水に染み出して、少ししか実らないように? 出来るのかしら。
野呂には清めの力を持つ祝人頭と、心が読める祝が居るのよ。闇なんてサッと清められるし、近づいてきたら気付くと思うの。
それに水。良山の水は冷たくて、とっても美味しかった。はじめて飲んだ時、ビックリしたもの。タマたちも美味しくて『驚いた』って言ってたわ。
大実神は実り、大蛇神は水の神様。だから、なのかな。
「シオシオだわ。」
「そうなんだ。水も土も清らで日当たり、風通しも良いのにね。」
「こんにちは、マヨさま。」
「こんにちは、タエ。良村の田や畑は、どんなだったのかな。」
「水を吸い上げ光を受けて、土もフワッフワ。風にクルンと撫でられて、中からキラキラしているように見えました。」
「良い田人、畑人が居るのでしょうね。」
「はい。・・・・・・マヨさま、清めの力を揮われないのですか。ミオさまと力を合わせれば、野呂から闇を遠ざける事だって出来ますよね。」
野呂山って、祝の力に頼りすぎ! そりゃ強いわ。
水を操る社の司、風を操る禰宜、心を読める祝。継ぐ子の中には戦える力を持つ子だって、いっぱい居るんでしょう? なのにナゼ、力を揮わないの。
「ハハッ、こりゃ手厳しい。」
先読したのか、いや違う。誰から聞いた。
「マヨ、顔コワぁい。」
タエが受け継いだのは先読の力。なのに、何も聞こえない。
「タタ!」
「そうコワイ顔するな。怖いぞ。」
何も考えてイナイのか、守りの力を隠し持っているのか。オカシイ、目が翳む。
祝の目が翳んだのは、フサが狐火を出したから。禰宜が近づけないのは、シナが影を噛んだから。社の司が動けないのは、クルに影を踏まれたから。
クルは添野神、フサは茅野神、シナは飯野神の特命を受け、動いている。
放たれたとはいえ元、社憑き。守りながら戦えるし、闇にも強い。何れも齢ウン百年の大ベテラン。人に姿を見せる事は無い・・・・・・が、マルには丸見え。
「なぁ木菟、どう思う。」
「稲の育ちが悪いのは呪いダケじゃ無い。御力が弱くなって御出でだ、と思う。」
「野呂の田を見て直ぐだぜ、気付いたの。」
「他には?」
「村に潜んでた鷲の目のさ、若いを見つけた。」
「エッ。」
良村で暮らす早稲の生き残りは皆、カンが鋭く警戒心も強い。
目の前で家族を殺されたり、嬲られるのを見ている。他と違う事を受け入れ、命を捨てずに生きると決めた。
引き取られる子は体にも心にも傷を負い、ドロンとした目をしている。他じゃ生きられないから良村に来た、良村でしか生きられない子たち。
闇の中、失った光を求め彷徨う。ボタボタ血を流しながら。
マルもタエも、タマもミヨも同じ。
だから判るのだ。闇を抱えた人、闇に生きる人、己を殺して生きる人、周りに合わせている人など、一目で見抜いてしまう。
「イザとなりゃ里に隠すが、そん時は。」
「滝山に逃がせ。野比の狩頭には、オレから話す。何が何でも守るんだ。」
「オウ。」