11-111 それでも守か
むつ守は指の先から光の糸を出し、生き物を断ち切る力を生まれ持つ。木もバッサリ切ってしまうので、とつ守から良く叱られる。
その度にシュンとするが、いつ守の姿を見るとケロリと忘れてニッコニコ。
「むつ守。八の事、頼めますか。」
「はい。手足を切ってから首を刎ね、胴を真っ二つ。三つに切ろうカナ、うふふ。」
むつ守が個性的なのは生まれつきでは無い。歪められたのだ、親に。
己が他と違うと気付いたのは三つの時。恐ろしくなり、誰にも何も言わずに耐えた。怖かったのだ、捨てられるのが。
なのに五つで口減らしのため親に売られ、穢されそうになり力を揮う。
娘に祝の力が有る事を知った親は、それはもう大喜び。山守に売ろうとしたが断られ、他にも断られ放り込んだ。
村外れにある獄は洞の中にあり、とても寒い。泣いても叫んでも助けが来ず、食べ物と水が日に一度、運び込まれるダケ。
言の葉も笑い方も忘れてしまった。
『どうして殺さないのだろう』と思いながら一人、ボンヤリと時を過ごす。
生きていても良い事が無い。なのに『死にたい』とか『死のう』と思わなかったのは、生きるのに疲れたから。
村長の首を刎ねたのは嫌らしい目つきで、『十五にもなって知らねぇと恥ずかしいぞ』と襲ってきたから。
獄を抜け出し逃げた後、祝辺に向かったのは何となく、高いトコロに行きたくなったから。
いつ守に救われ、そのまま祝社の祝女になった。
隠の守には懐かず、いつ守から離れようとシナカッタが『人の守は死ねば隠の守になる』と知り、ハッとする。
人の守になれば隠の守になれる。いつ守の側に、ずっとずっと居られる! 黙っていては伝わらない。吃っても恥ずかしがらず、キチンと『人の守になる』と言おう。
シッカリ告げ、認めてもらおう。
「四つにしましょうか?」
「いや、真っ二つで。」
「はい、そうします。」
ニコッ。
諦めずシッカリ学び、人の守になりました。チョッピリ過激ですが隠の守として、務めを果たしてマス。
「ギャァァッ。」
悪かった。良山から手を引きます、諦めます。だから頼むよ、お願いします。もう止めて。
「まだまだぁ。」
隠は死ねない。何が有っても、どんな事になっても死ねないんだよ。もう死んでるから。隠は隠なんだ、死んでも戻るんだ。
「ダズゲデェェ。」
痛い痛い痛い、痛いよ痛い。もう止めて、許して。痛いのは嫌だイヤなんだ、痛いよ助けて。お願い。
「キャッホィ。」
何がソンナに楽しいんだ。それでも守か、隠の守か。あぁそうだ、むつ守は違うんだ。他の守とは違うんだ。それでもさ、少しくらい考えろよ。
「ユルジデェェ。」
お許しください、むつ守さま。私が悪う御座いました。もうシマセン。
良山にも大蛇神の愛し子にも、玉置にも宝玉社のにも手を出しません。引きます、諦めます。
だから許して、お願いだから許して。もう止めて。
「いつ守、むつ守が。むつ守が。」
ひとつ守、真っ青。
「はい。静かになるまで続くでしょう。」
「いや、イヤいやイヤ。それはドウなの?」
「お気になさらず。と言っても、気に」
「なります!」
「そうですか。では閉じ込め、祝辺の獄に入れます。」
「はい、お願いします。」
場所を移して再開された処刑は三日三晩、むつ守がフラフラになるまで続いた。