5-33 火蓋を切る
「その娘が、ツウか。」
「ひ、平良の・・・・・・ハッ、守。」
胸が、微かに光っている。生きていようが死んでいようが、祝辺の守は、祝辺の守。恐ろしく強い力を持つ。
霧雲山を守っているのは、祝辺の守。山守神は、いつも御守りくださる。そう、見守り一択。
生きている守は一人。だが、命を終え、隠となった守の数は、百を超えるとも。
それだけいれば、何だって出来る。平良の烏に乗って、霧雲山から出ることなど、難しくない。
「雲井神。悪意を、どうなさる。」
畏れることなく、堂々と。
「それは・・・・・・。」
「どうなさる。」
さっさと答えろ、と言わんばかり。
「霧雲山の、妖怪の墓場へ。」
「甘い。」
「は、祓うにも・・・・・・。」
悪の限りを尽くし、国つ神の中で最も温和とされる、雲井神を激怒させた野弧、悪意。
捕らえる前、祝辺の守より『墓場送りにするなら、乱雲山ではなく、霧雲山に』と。しかし、断ったのだ。
「祓えぬ、と。で、どうなさる。」
「・・・・・・。」
祝辺の守。しかも死し、逆らえぬほどの力を有する。山守神より強い、守。山は違えど、つべこべ言わせず、従える。そんな気を吐く。
「どうなさる。」
耐えきれず、ゴロゴロを見為さる雲井神。
「申し上げます。」
乱雲山、三妖怪。並んで平伏した。
「悪意は、人の子ヒサを、妖怪に変えました。」
「ヒサの闇を吸い、力を増しました。」
「我ら、躊躇うことなく力を合わせ、捕らえます。」
「で、祓えるのか。」
抑揚のない声。お怒りである。
「ヒサの魂は、祓う手筈が整っております。」
「悪意の魂も、引き剥がします。」
「悪意の魂を、祓い清めて頂きたく。」
「良かろう。」
「雲井神。お気を確かに。」
「ハッ、ゴロゴロ。」
「お許しが出ました。」
「そ、そうか。」
霧雲山には、武闘派が多い。そこに君臨する重鎮、祝辺の守。平和をこよなく愛し、力を尽くす。
霧雲山さえ守れれば良い、というフシがある。とはいえ、人と妖怪の強い味方。
その守から、お許しが出たのだ。ある意味、無敵である。
「フク。決してツウを、外に出してはならぬ。くれぐれも、頼む。」
「はい。」
三妖怪、出陣。