11-110 いつの間に
八がチアノーゼになったのは、いつ守の所為。
いつ守は日光か月光で空間を仕切り、封鎖する闇の力を持つ元、祝人頭。
山守村の出である事を理由に、人の守就任を固辞するも認められず、渋り渋り申し入れを受諾する。
他の子と違うと気付いたのは五つの時。
もしコレが祝の力なら何をされるか、何をさせられるか分からない。死んでたまるか! と望日を待って鎮森に入り、コッソリ確かめ心に決めた。
親にも言わず、祝辺へ行こうと。
「いつ守、少し宜しいか。」
「おや、とつ守。何でしょう。」
稲の育ちが悪いとは思いましたが、そうですか。テイの闇ですか。八を締め上げる前に急ぎ、大祓の儀を執り行いましょう。
オットその前に、他ではドウなのか確かめねば。
「谷河より野比、野呂が良いでしょう。」
急がぬなら谷河の狩り人、急ぐなら忍び。
「そうですね。」
この度は急ぎだ、平良を。
「御山の内なら闇の力と清めの力で。」
ふたつ守、みつ守、よつ守で囲み、ひとつ守、ななつ守、やつ守が力を合わせる。
「統べる地を清めるなら隠の守でグルっと囲み、山守神に御清めいただく。」
天つ国と根の国へは隠の世、和山社に御任せするより他ない。人の世、囲みは名呼びで支えは我ら。
「私は野呂、とつ守は野比へ。」
「はい。平良、こちらへ。」
「カァ。」 オヨビデショウカ。
いつ守に呼ばれ、二羽の烏が舞い降りた。いつ守を乗せた平良は野呂、とつ守を乗せた平良は野比へ急ぐ。
因みに祝社には隠烏と呼ばれる、隠になった平良の烏が詰めている。
社憑きではナイので毎朝、平良から交代で二羽出勤。鎮森で待機中の烏を必要数、呼び寄せるのが仕事デス。
「ひとつ守、少し宜しいか。」
いつ守が声を掛け、ニコリ。
「はい。どうぞ、こちらへ。」
テイの闇が御山の中で広がっている? 稲の育ちが悪い事には気付いていました。けれど、それが呪いだったとは。ハァ、困りましたね。
大蛇神が御姿を現されたと聞いた時も驚きましたが、この事を御調べ遊ばしたのでしょう。
テイの闇が水に溶け出したのです。近いウチに稲の他にも及び、力を奪われる。そうなれば食べ物に困り、恐ろしい事になります。
「ひとつ守。八の事、どう為さる御積りで。」
いつ守が急かす。
「祝辺の獄に入れ大祓の後、裁きましょうか。」
「八を獄に入れる前にザクリと、むつ守に切り離してもらいましょう。」
とつ守がニコニコしながら、恐ろしい事を平然と言って退けた。
「とつ守は狐が、大蛇神の使い狐が目を輝かせ、飛び去るのを見たのです。急ぎ動かねば。」
いつ守が追い打ちをかけ、とつ守が頷く。
良山には大蛇神の愛し子が居る。その良山を八は、山裾の地で暮らす戦好きに襲わせようと考えた。
企みは狐を通し、大蛇神の御耳へ。
八よ、祝辺を潰す気か。奥津城に叩き込まれたいのか。
あぁ、頭が痛い。クラクラしてきた。
「切るなら手足、胴も切りましょう。」
「むつ守? いつの間に。」
「はじめから。いつ守の後ろに、ずっと居りましたヨ。ね、とつ守。」
「はい。」