11-109 酸欠状態になれば、起こります
豆や蕎麦など、畑の物は良く育っている。けれど何だ、この稲は。
祝辺が在る山守は霧雲一、天に近い山。日当たりも風通しも良い。なのに、いや待て。ナゼとつ守は何も言わぬ。
「フッ。」
喜べ、とつ守。良山に居る、マルの孫は手を出さん。蛇に守られ、社かドコかに隠されるだろうよ。が、知られればドウなる?
武田の国長が動かずとも村長、鴫山の巫や覡なら動く。
猛り立つ心を抑えられず、ドッと攻め込む兵たち。多くは子、戦える者は少ない。
釜戸に奪われた北山の子を纏めて、ヨリの力でココまで移させれば思うまま。
「八。」
ゲッ、スミ。読みやがったな。
「良山に手を出すな。」
後から来たクセに、その言いよう。
「前に玉置、北山、東山。飯田、武田も攻め込んだが村どころか山にも入れず、数多の兵が死んだと聞く。」
へぇ、そうかい。
「何れも山裾の地、戦好きとして知られる国や村。」
「だから何だ、スミ。」
「良山に手を出してはナラヌ。あの山には二柱、大蛇神と大実神が御坐す。暮らしているのは釜戸の祝に認められ、早稲から移り住んだ人たち。」
そりゃまぁ。けどよ、『早稲の生き残り』っても人だろう? 弱いから逃げて来たんだ。
「良く考えろ。」
「冬だから、雪に埋もれてたから勝てたダケ。あの山には祝の、それも強い力を持つ子が居るんだ。ソレを狙って何が悪い。」
聞ぃちゃった、聞ぃちゃった。コォンコン聞ぃちゃった。蛇神様に御伝えしよう! モフン。
「ヨリ、来い。」
畑を見に来たら、悪いのと目が合ってシマッタ。
人や物を他に移す力を生まれ持つヨリは、継ぐ子の時から八を避けていた。若くして隠の守になったが、最期に見た八の顔が今も忘れられない。
「い、いつ守さまぁぁ。」
八はヨリに力を揮い、地涯滝の上から飛び降りさせた。思うまま荒荒しく使うために。けれど、然うは問屋が卸さなかった。
初見で八を危険と判断し、距離を置いていた管理職の一隠が動いたのだ。
隠になって直ぐ、いつ守に救い出されたヨリはガタガタ震え、ひとつ守に訴える。けれど証が無い。
いつ守はニヤリと笑う八には一瞥もくれず、言った。『私が引き受けます。宜しいですね』と。
「八、引け。」
いつ守がヨリを背に隠し、ハッキリと言い切る。
「全ては霧雲山を守る、ため、に・・・・・・と、考え・・・・・・て。」
ヨロヨロ蹌踉めき、跪く八。その唇は青黒く、ヒクヒクしている。爪の色も悪い。
「八は山裾の地で暮らす人に良山を襲わせ、祝の力を持つ子を攫う事でしか、霧雲山の統べる地を守れぬと考えたのか。」
コクッ、コクコクコク。
「ハィ。ぞのどおり、です。」
見ぃちゃった、見ぃちゃった。コォンコン見ぃちゃった。大蛇様に御伝えしよう! モフン。
おや、あの狐は確か。
「とつ守、実の付きが黒いです。こちらへ。もう! 早く早くぅ。」
継ぐ子に手を引かれ、苦笑いしながら田んぼに到着。
ホウホウ。御山の力が弱まって、いや違う。テイの闇が水に溶け、ココまで上がってきたのだろう。
「アッチは白くて、ソッチは実が小さくて細いです。」
大祓するか。