11-106 何奴も此奴も
籠を二つ付けた馬は珍しくないが、背負子を背負った犬は珍しい。仔犬の時から慣らしても嫌がるから。
なのに良村の犬は背負子に荷を乗せ、落さないようにトコトコ歩くと聞く。矢や枯れ枝も束だと重いし、歩き辛いだろうに。
その背負子が、良村の背負子が目の前にある。見たい、触りたい、確かめたい。衣も履物もシッカリした良い品だ。あの袋の中には、もっと良い品がタップリと。
そう思い手を伸ばしたら、見えない『何か』に足を噛まれた。
「ようこそ野呂へ。野呂神の使わしめ、ピーです。」
畑を巡回して、鼠や土竜をパックンしていたので遅れました。骸は飼い犬に贈ったので、残さずモグモグしてますヨ。
「良村から来たタエです。」
ペコリ。
「ソウに任せるの、止めます。オウとヒロが良いでしょう。」
狩り人夫婦の末っ子、タラには狩りの才がある。タエと同じくらいだし、ソウと違って気が利く。
「そんな!」
「ソウよ、黙って付いて来い。」
野呂神は谷河神に、タエが野呂入りした事を御伝え遊ばす。
放たれた飼い鷲は山裾の地へ飛び、潜んでいる狩りに伝える。小出に預けた子を連れ、戻れと。
野呂社の離れでは仕え人と山長、タエと愉快な仲間たちが話し合っていた。
生い立ちを話すタエの側には、蜷局を巻く大蛇。いつもノホホンとしているピーが、止まり木に留まってキリリ。
「フゥ、そうか。」
タエの話を聞き、ソウは思った。『こりゃイカン』と。
祝辺から隠すため、大泉と鎮野が動く。その間に出て滝山を抜け、野呂山に入ったのだ。祝辺にも山守にも気付かれてイナイ。
が、そのうち気付くだろう。
「タエさん。衣の中に、とても清らで強いモノを隠してマスね。何ですか。」
「タタ。」
「だって父さん、スゴイんだ。判るでしょう?」
祝人頭と祝は親子です。祝は母似なので、言わなきゃワカリマセン。
「竹筒、袋の中からもヒシヒシとっ。」
パコンと叩かれ、シュン。
「痛いよ。」
心を読め、読心術も使えるタタは祝女と祝人の倅で、母は己を産んで直ぐ死んだ。
マヨは妻の忘れ形見であるタタを宝のように慈しむ。その結果、個性的に育ってしまった。
倅を支えるには『頑張って出世するしかナイ』と努力し、祝人頭に就任。
「ウッウン、タエさん。男たちの言うコトは、サラッと聞き流してください。」
水を操る力を生まれ持つ社の司、ミオは若く見えるが二児の母。
倅も娘も独立して孫まで居る。個性的なタタを大きな倅だと思い、温かく見守っていたがナント! 問題児が祝になってしまった。
ミオとマヨは心を鬼にする。全ては野呂のため、皆の幸せと暮らしを守るため。
「ミオさま。タエは野呂では無く、他に託しましょう。」
世話役は外されたが山長である。タエには悪いが野呂を守るため、もっと強い山に託すしかナイと考えた。
「・・・・・・はい。」
唇をギュッとして、タエが声を絞り出す。
「タエさん、落ち着いて。男の言うコトなんて聞き流して。ね?」
「そうだよ。隠してるの、見せっ。」
パコォン!
「痛ぁい。」
「タエ、少しの間で良い。ココで暮らせ。どうしても嫌ならフサたちに伝えよ。我が直ぐ、迎えに来る。」
「はい、大蛇様。ありがとうございます。」