11-104 一人じゃない
大実社から隠の世に入る。保ち隠、ヘグの家で二妖一隠と対面。『死ぬまで憑きます、守ります』と告白されドキドキ。
悪いモノが良山に入れば清められるので、どうしたって良村に入れない。
マルに祓い清められる事も、マルコに吠えられる事も無かった。だから良いモノなのだろう。そう判断し、受け入れる事にした。
「そろそろ行くか。」
「はい、大蛇様。」
ポンと巨大化したシナの背に、フサとクルがソッと荷を乗せる。それからピョンと飛び乗り、落ちないように軽く押さえた。
タエが再び大蛇の背に乗ると、スゥっと上昇してクネクネ。
飛行時も蛇行しますよ、蛇だもの。巨体なので緩やかデス。
「わぁ、大きい。」
ドドンと聳える和山に、ビックリしすぎてポカァン。
「和山は、そうさな。霧雲山の統べる地が二つ、と言えば解るかな。少し左に見えるのが根の国に繋がる『黄泉湖』。子狐の川と羽川が交わるトコロにドブンと飛び込めば、人の世からも入れる。」
ゾゾッ。
「中つ国と根の国の境だからな、ワッハッハ。入るぞ。」
エッ! と・・・・・・、あれ? 息が出来る。水の中なのに苦しくナイ。アッ、外に出た。ん、んん。
「根の国だ。」
ソウデスカ。
日の光が届かない、暗くてジメジメしたトコロだと思っていた。思ったより明るいケド暖かい、というより暑い。あのモクモク、火口かしら。
「ほれ、あの洞が黄泉平坂だ。」
どうして根平坂とか、根国平坂とかじゃナイのかしら。
「この下に熱くてドロドロした、黄色い泉がある。中つ国と黄泉を繋ぐ坂だから、黄泉平坂。根の国はな、中つ国と黄泉の間に在るんだよ。」
「黄色い泉の水は火口から噴き出る、火の水ですか。」
「真中にある岩が融け、黄色い泉になる。それがドンドン押し出され、噴き出したのが火の水だ。」
へぇ、そうなんだ。
「根の国って、近いんですね。」
「ワッハッハ、近いか。」
洞の中、黄泉平坂は耳がキィンとなるホド静かだった。コワイ、引き込まれる。そう思った時、胸の辺りが温かくなりビックリ。
フワフワした何かに包まれ、思い出す。無くさないように首から下げている、マルから貰った『守り袋』の事を。
そうだ、私は一人じゃない。良村にはマル、宝玉社にはミヨとタマが居る。シナさまフサさまクルさまも憑いている。
どんなに離れても戻れなくても、私は良村の子。
「もうすぐ鎮野に出る。光が目に刺さるから、良いと言うまで目を閉じなさい。」
「はい、大蛇様。」
暗いトコロから明るいトコロに出ると、クラッとしちゃうものね。
暖かい。お日様の光だわ、鎮野に出たのね。あら、滝の音。・・・・・・下っている?
「もう良い、目を開けなさい。」
「はい。」
ユックリゆっくり開く。
「わぁぁ。」
ドウドウと流れる川を越え、深い谷を越え、キラキラ輝く山に入った。アッチにもコッチにも滝、滝、滝。
「滝山を抜ければ、野呂まで直ぐだ。」
野呂。ミヨと同じ力を持つ祝、タマと同じ力を持つ社の司、鷲の目が居る山。シッカリしなきゃ。