11-103 光の中で笑えるように
マル特製『守り袋』を無くさぬよう首から下げ、新しい靴を履き、良村の子として旅立ったタエ。
『行ってらっしゃい』と笑顔で送り出したシゲと、手を振って見送った皆の思いは一つ。
「行っちゃった。」
誰がか呟く。
「さぁ皆、笑って。」
涙を拭いて、マルが明るい声を出した。
「ワン。」 ワラッテ。
もう会えないカモしれない。でもね、きっとタエは幸せになる。
良村でも幸せだったよ。でもね、良い人に出会える。ボクに先読の力は無いけど、そう思うんだ。
「まりゅこ、いってりゅ。たえ、ちあぁしぇ、なるっ。」
アケが胸を張り、ニコリ。
「そうね、きっと幸せになるわ。」
「うん。」
大蛇社の前で大蛇の背に乗り、大実社を通って隠の世へ。その時はじめて、己に憑いていた二妖一隠を見た。
「はじめまして?」
憑いているのは知っていたが、姿を見るのは初めて。
「飯野神の仰せにより、社憑きから人憑きになりました。シナと申します。」
川亀の隠です。
「茅野神の仰せにより、社憑きから人憑きになりました。フサと申します。」
狐の妖怪デス。
「添野神の仰せにより、社憑きから人憑きになりました。クルと申します。」
犬の妖怪デス。
シナは飯野で生まれたタエの祖母を、生まれる前から知っている。タエの曾祖父は飯野社の祝人、曾祖母は祝女だったから。
武田は、母から娘へ受け継がれる先読の力が『飯野で守られている』と知り、戦を仕掛ける。
二人は娘を守ろうと戦い、命を落した。
生き延びた幼子は武田の兵に攫われ、東山に売られ、茅野に逃げ果す。幸せな結婚生活を送るが娘を攫われ、守れず死亡。
フサはタエの母を生まれる前から知っている。タエの祖父は茅野社の祝人、祖母は祝女だったから。
飯田は探し求めていた娘が茅野に居ると知り、戦を仕掛ける。
二人は娘だけは守ろうと戦い、命を落とした。
生き延びた幼子は飯田の兵に攫われ川北に売られ、添野に逃げ果す。幸せな結婚生活を送るが娘を攫われ、守れず死亡。
クルはタエを生まれる前から知っている。タエの父は添野社の祝人、母は祝女だったから。
豊田は探していた娘が添野に居ると知り、戦を仕掛けた。
二人は娘を守ろうと戦い、命を落とす。
生き延びた幼子は豊田の兵に攫われ、売られる前に豊野に逃げるも捕まって北山に売られた。
父母は死ぬまで娘の幸せを願った。なのに、命は守れたのに守れなかったと、守り切れなかったと知った時、どれほど苦しんだか。
生き物に触れられなければ、守りたくても守れない。戦えないのだ、隠だから。神だって同じ。同じ事が繰り返されているのにジッと耐え、見守る事しか出来ない。
けれど、もう嫌だ。
北山から救い出された子の中に、強い先読の力を生まれ持つ子が居る。そう御聞き遊ばし飯野神、茅野神、添野神は急ぎ、最古参の社憑きを向かわせ為さった。
救い出されたのがあの子なら、誰に何を言われても守りたい。いや守る!
三柱が守ると御決め遊ばした、先読の力を持つ娘の名はタエ。山守と祝辺に狙われているタエを、どんな手を使っても守り抜く。
手始めに憑け為さったのが二妖一隠。
タエが死ぬまで付き添い守り、イザとなれば片付ける。人でも隠でも迷わず奪い、キリキリ縛ってサッサと清め、根の国か奥津城に叩き込む。
全てはタエの幸せのため。決して引かず諦めず、光の中で笑えるように。