5-32 募る不安
「祝、皆さま。コウが、連れ去られました。」
「な、なんですって?」
「ヒロ。違い、ないのか。」
「はい。」
「矢光の長よ、何があった。」
声は聞こえるが、姿が見えない。迷うな。きっと雲井神。そうでなければ、ゴロゴロさまだ。
「いきなり、霧が濃くなりました。見たことのない、灰のような、そんな霧でした。すぐに立ち止まるよう、コウに声をかけ、悪しき妖怪の企みについて、話しました。」
「そうか。で、それから。」
「コウには、ジロ譲りの才があるので、何があっても、コウなら切り抜けるだろう。しかし、妖怪。それも墓場の妖怪なら。そう考えていると、声が。」
「声?」
「はい。『そうだ、矢光の長よ。人が妖怪に敵うことなど、有り得ない。コウはもらう。悪く思うな』と。」
「うぅぅぅん。で、どうした。」
「コウを呼びました。しかし・・・・・・。」
「応えが、無かった。」
「はい。」
「ゴロゴロさま。ヒサがいません。」
「そうか、で。」
「悪意の気が、残されておりました。」
「ヤツらしいな。」
「フク。ツウを、社から出すな。」
「はい。」
「ヒロ。長を集め、村から消えた者が居らぬか、調べさせよ。ツル。切雲村へ行き、ツウを連れて、戻れ。」
コウが、悪しき妖怪に、攫われた?
「待ちなさい、ツウ。」
「離して。探さなきゃ、コウを。」
「落ち着いて。あなたに何があったら、コウが悲しむわ。そうでしょう?」
「アァァァァァァァ。」
ツウが叫ぶ。ガタガタ震えながら、ボロボロ涙を流して。誰も、何も言えなかった。
ツウにとって、コウは光。共に生きようと誓った、掛替えのない人。コウがいなければ、生きてゆけない。
「コウは言ったわ。『きっと、必ず帰ってくるよ』って。」
叫ぶように、祈るように。
「お願い、帰ってきて。一人にしないで、コウ。」
オンオン泣きつづけ、とうとう気を失った。
「そう嘆くな、娘。」
「あの子には、力がある。」
「きっと、戻る。」
三妖怪の思いが伝わったのか、穏やかになった。