11-100 領地拡張
椎の川口が明里に編入されたのは、ごく最近の事。
大貝山の統べる地の、西端に広がる森に名は無い。海に流れ込む川の多くは平地だが、椎の川口は深い谷。
その底を流れる椎の川は大きいが、恐ろしく流れが早い事。森のアチコチに毒キノコ、窪地から毒霧が発生する事から『死の森』と呼ばれるようになった。
通称とはいえ死の森に入る命知らずは少なく、一柱も御坐さぬ空白地帯。
代替わり為さった大貝神は『近くに御坐す神に、丸ごと贈ろう』と御思い遊ばす。けれど残念な事に松田は耶万に滅ぼされ、数多の神が御隠れ遊ばした。
となれば当然お留守。
食べて寝て遊んでグッスリ寝たら、スッカリ忘れてルルらラン。
時流れ、事件発生!
大陸妖怪の奇襲を受けるも、悪取神の御力により大事に至らずホッ。渦風神の使わしめ、流の活躍により『倭漢講和条約』締結。
わぁいと喜びスッテンころりん。数秒後、ピコンと思い出された。
もし椎の川を上がり、霧雲山の統べる地に何かあればドウなる。控え目に言って大事だ。
代替わりしたバカリなのに、また代替わりはイヤ。そうだ! 悪取神に御任せしよう、そうしよう♪ と相成り、チョッピリ領地拡張。
めでたしメデタシ?
「椎の川口が神の御力で守られても、人が通れるなら兵だって。」
コタが呟く。
「そうだな。川の流れに逆らって漕ぐ水手に、モノを考えるユトリなんて無い。」
「気を抜いたらドドッと流され、岩にドン。引っ繰り返れば溺れ死ぬ、オッソロシイ川だぜ。」
ノリとセンが言うのだ、そうなのだろう。
「兵の幾らか融かされ? たとしても、大陸のは大きい。生き残りが抜ければ、そのまま上がれる。」
シンが言い切った。
「海から白い森の北まで、離れてるよな。」
カズが腕組みし、考え込む。
南から攻め込んでも、ココまで辿り着くのは少ないハズ。それでも備えなければイケナイ。
グネグネ激しい流れを進めば西や東、北からだって入れる。
霧雲山の統べる地は祝辺の守が散らばって、アチコチから目を光らせていると聞く。けれど隠の守に戦えるのか? 難しかろう。
霧雲山は何か起きても守られるが、霧雲山の統べる地は穴だらけ。
「この山はマルの力で守られている。けど、だからって気を抜けない。どうだろう。北は山裾の地、東と南は蔓の川、西は白縫川までグルッと広げないか。」
「けどよ、カズ。ソレだと墓に来る縁の人、怖くて近づけなくなるぜ。」
「違うよムロ。カズが言ってるのはさ、戦に備えてイロイロ仕掛けて外したトコ。森だよ。」
「そうなのか。」
「あぁ、タケの言う通り。」
森は樹木が茂り立つ所、林は樹木の群がり生えた所。分かり難い? 森は林より規模が大きく、木が密生してマス。林は森より範囲が狭いヨ。
鮎川の南に聳える良山は、とてもヒンヤリしています。理由は簡単、標高が高くなると気温が下がるから。
山麓だって高いよ。森川が鮎川に流れているんだから、当たり前だよネ。
「林はそのまま。前に仕掛けて外した辺り、グルッと取り込もう。今も入るのはゲン一人。良い森なのに、他の狩り人は入らない。どうだ?」
シゲに問われ皆、ウンと頷いた。
「ヨシ、決まりだ。タエを見送って、少ししたら始めよう。」
狩り人でも怖がって近づかないし、守りを固めるのは当たり前。という事で、忍びには社を通して周知徹底。
馬守と茅野には団子を持って訪問し、長に報告する。