11-97 水の石
私には何も見えないケド、アケには何かが見えている、のかしら。
「まりゅさ。」
トコトコトコォ、ギュッ。
「どうしたの、アケ。」
マルさま、良う御出でくださいました。ホッ。
タエ見守り隊クル、フサ、シナ。有難く感じ、胸がドキドキして居ります。キュルルン。
そのように見つめられては、ハッ! 御鎮まりください、大蛇神。二妖一 隠、誓って横合いから御慕いするナド。
マルさまは優しく賢く、美しい御人で御座います。けれど我ら、守れなんだ子を守るため、社を離れて憑いて居るのです。
「大蛇、落ち着いて。」
ガタガタ震える見守り隊の目に、涙がキラリと光る。
「まりゅさ。ちりょいの、見えりゅ?」
アケに問われ、ニッコリ。
「えぇ。でもね、御姿を隠して御出でなの。」
「ん?」
「隠れん坊よ。だからね、イケナイわ。」
「しょっか。」
見守り隊に笑顔を向け、アケが手を振った。ホッとした一同、ニコッ。
私には見えない何かが、マルとアケには見えている。けれどソレは良いモノで、私を守って。いいえ見守られているのよ、ずっと。
悪いモノなら良山に入れないし、大蛇神がマルから遠ざけ為さる。マルコだって尾を振ってるし、他の犬も吠えない。
嫌な感じも悪い感じもシナイから使わしめ、社憑きかしら。
「タエ?」
「たえ?」
「アッ、ごめんなさい。ボンヤリして。」
タエが照れ笑いを浮かべる。
シッカリしなきゃ。先読する度コロコロ変わるから、あんまり眠れないの。直ぐに起きちゃう。婆さまも母さんも怖かったよね、きっと。
マルに清められ、守られている良山でコレなんだもん。外に出たらドウなるんだろう。私、耐えられるかな。
あらヤだ。つい先『シッカリしなきゃ』って決めたのに、私ったら。
「タエ。これ、受け取って。」
良村の守り袋? にしては大きいし、厚みがある。
「出してみて。」
言われるまま袋の口を開き、掌の上で逆さにした。コロンと出てきたのは無色透明、六方柱状の結晶。
「水の石!」
段段畑の南にある石の洞には見張が置かれ、何らかの条件が揃わなければ出入り出来ない。見張るのは良山で暮らす隠と妖怪。
認められたのはマルとマルコ、ノリコだけ。
近づけたのに弾かれた大蛇は、『中に入る時はマルコを連れて行きなさい』とマルに言い聞かせた。
洞の口には白い砂が積り、中には白いボコボコが入った石、黒いのや黄色いの、ちょっぴり赤いのも転がっている。
奥には透き通っていて、濁りの無いのがゴロゴロ。
何れも強い力を秘めており、恐ろしいホド美しい。気を抜くと魅入られ、時を忘れそう。
「小さいケドとっても清らで、強い力が入ってるの。だからね、きっとタエを守ってくれるわ。」
「ありがとう。ありがとう、マル。」
マルは願う。タエが『良山を出ても迷わず、笑って暮らせますように』と。