11-96 気の持ちよう
ずっと怖くて言えなかったアレコレ。大泣きしながら全て吐き出し、スッキリしたタエは前向きに考えるようになった。
「茅野の婆さま、爺さま。」
霧雲山は閉ざされていて、他の山から切り離されている。そう聞いたケド少し違う。
隠の世に『妖怪の墓場』と呼ばれる、死んでも強い力を保つ妖怪たちが葬られるトコロがある。
だからソコは他から切り離されて、祝辺の守にしか入れないんだって。
「添野の母さん、父さん。」
行かなくて良いなら私、行きたくない。でも行かなきゃ。
霧雲山を救う子が、アンシリエヌを守る子が生まれなくなる。私の子が親になって、その子が大きな力を持つ。
私、婆さまになるの。
「ちょっぴりコワイけど、もう逃げない。」
私、幸せになる。でね、年を取って死ぬの。
手を伸ばすとね、優しく包むようにしてくれた。顔はボンヤリして見えなかったケド、きっと優しい目をした人よ。
「あえ。」
「あらアケ、一人?」
「うん。」
添野の近くには大甕川、茅野の近くには鮎川が流れている。
森川は鮎川に流れ込むし、良村と茅野の先に添野が在ると教わった。だからタエは日に一度、茅野と添野に向かって手を合わす。
マルから教わったのだ。『手の皺と皺を合わせて祈ると、心が落ち着いて幸せになるよ』と。
『騙されたと思って試してみて』と言われ、言われるまま手を合わせた。すると少し、心が軽くなってビックリ。
「おいにょり?」
「えぇ、そうよ。」
「あけぇもっ。」
パンと拍手を打ち、大蛇社に一礼。
アケの親も神を拝む時、両の掌を打ち合わせて鳴らしていたのだろう。良村に来て直ぐ、嬉しそうな顔をして大蛇社へ。
思い切りパンと鳴らし、難しい顔をして唸りだす。
良村の皆、驚いたが『祈りを捧げているのだろう』と思い、見守る事にした。
顔を上げるのを待って、マルが近づく。犬を怖がると聞いていたので、マルコに待つよう伝えて。
『響くから軽くね』と言って聞かせると、コクンと頷き微笑んだ。
今でも犬を怖がるし、人見知りも激しい。けれど良く食べ良く眠り、トコトコ走る。
「まりゅさ、ろこ?」
「段段畑よ。」
「ちりょいの、見えりゅ?」
「白いのって、なぁに。」
タエには犬の妖怪クル、狐の妖怪フサ、川亀の隠シナが憑いている。
何れも元、社憑き。タエを守るのが仕事なので、交代で見守り中。姿を隠しているので、タエには見えない。
北山に居た時にはマルにも見えなかったが、釜戸山ではウッスラと、良村で暮らすようになってからハッキリと見えるようになった。
「んとぉ、いにゅ。」
尻尾がクルン。だから犬だよ、狐じゃない。
「犬?」
キョロキョロ。
「いりゅよ。」
ジィっと見つめられると気になってしまう。
これ、止めんか。照れる、じゃなく困る。我らはタエを、山守や祝辺から守るために憑いて居るのだ。
・・・・・・お戻りください、マルさまぁ。