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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
山守編
1044/1588

11-95 祈りを込めて


遅い! 遅すぎる。アレだけ放ったのに一隠ひとおにも戻らぬとは。ナゼだ、何が起きている。


良山よいやまを守っているのは鴫山社しぎやまのやしろ祝女はふりめ、マルの孫に違い無い。


神が御隠れ遊ばし、からになった北山社きたやまのやしろで産まされた子の一人。祝の力を生まれ持ち、はじまりのおに神のめぐし子になったのだ。他の子とは違う。


山ひとつ清め、守るくらいの事はする。






よ、少し良いか。」


ゲッ、とつ守。


「ヌシにつけた社憑き、身も心も疲れ切って居る。隠は死なぬが、働き過ぎれば倒れるぞ。」


ハッ、代りなど幾らでも居る。使い捨ての何が悪い。


「野の草も花も、引き抜けば弱る。根を張る事もあるが、幾度いくたびも引き抜けば枯れる。」


ソレがドウした。


「八よ、社憑きを減らす気か。」


コイツに有るのは草木と話す力。他の生き物とは話せぬ、考えも分からぬ。


「私には分からぬが、どうだ? スミ。」


エッ。


「『代りなど幾らでも居る』『使い捨ての何が悪い』『ソレがドウした』『コイツに有るのは」


「待て! 待て待て待て。」






十三代には不安を増幅させ、心を操る力が有る。十代は身近に緑があれば安定するので、精神操作系の力は効かない。


つまり十代と十三代の能力は、相性がすこぶる悪い。



とつ守を嫌う理由は他にも。


山守ではなく霧山の生まれなのに、人の守に望まれて祝辺はふりべに来た事。霧山神きりやまのかみの使わしめ、ホッホから羽を貰った事。そして何より、真名まなで呼ばれぬ事。



人の守は死後、祝の力を保持したまま隠となる。なのに初代から十代は別格。同じ隠の守なのに名を呼ばれず、管理・監督の任に当たる上級管理職。


とつ守の全てが羨ましくて仕方ない。



十一代のうましは『死ぬまで満ち足りた日日を送れますように』、十二代のめぐは『愛おしい娘が幸せに暮らせますように』と祈りを込めて命名された。


二隠とも親から貰った名に誇りを持っており、真名を使えぬ先進せんしんを気の毒に思っている。



『八男だから』というアッサリした理由で八と名付けられた十三代は、嘘でも『矢のように真っ直ぐ育つように』とか、『強い狩り人になれるように』とか言われたかった。


ポンぽこ生まれる弟妹を世話しながら、少年は誓う。祝社はふりのやしろの継ぐ子になって、祝辺の守になると。






「八よ、良く聞け。良山の子は大蛇神おろちのかみの愛し子。手を出せばドウなるか、分かるな。」


とつ守の目がギラリと光った。


「祝社の継ぐ子は弱くはナイが強くもナイ。このままではイケナイと、思い・・・・・・。」


鋭いくちばし、体のわりに短い羽角うかく。間違い無い。とつ守の後ろに鷲鵂わしみみずくが、霧山神の使わしめが居る。


「何だ。何がイケナイのか、聞かせてもらおう。」


借りて来た猫、いや違うな。蛇に睨まれた蛙のように、八が地につくばう。


恐ろしさのために身がすくみ、動けなくなったのだ。


「良山から、マルの孫から手を引きましゅ。お許しくだひゃい。」


噛んだ。二度ふたたびも噛んだ。






霧山神の使わしめ、ホッホはきよを我が子のように愛している。


強い力を生まれ持ち、草木の声が聞こえる継ぐ子。育てば禰宜ねぎになると思っていた。なのに人の守に望まれ祝社へ。その後、とつ守に。



人だった時、清には先読の力が有った。


おのが霧山に残ればドウなるか、そのすえを見たのだろう。泣き出しそうな顔で『祝辺へ行きます』と言い、ニッコリ笑ったのだ。



ホッホは己の羽を抜き、清に贈った。守るために。


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